【映画】 〝長江への挽歌 深い宗教的境地〟 『長江 愛の詩』公開 楊超(ヤン・チャオ)監督インタビュー

 長江の雄大な姿を、その河口部から源流域まで余す処なく舞台とする映画『長江 愛の詩』が、この2月17日より日本公開となる。本公開にあわせ、楊超(ヤン・チャオ)監督に、自身の長江への想い、世界的な撮影監督リー・ピンビンとの共同作業などについて語ってもらった。

――『長江 愛の詩』本編中には寺院や仏像、道教の神像やチベット仏教のマニ石などが重要な要素として登場していますね。監督ご自身の信仰についてお聞かせください。

 わたし自身は特定の信仰をもっていませんが、宗教がもつ歴史については深い関心があり、仏教・道教・キリスト教をはじめ書物も多く読んできました。例えば中国のどこへ出かけても仏教や道教の寺院には必ず行くし、正直とても詳しいんです。

――楊超監督にとって、長江(揚子江)とはどのような存在なのでしょうか。

 幼いころ、母と旅行中に列車から初めて長江を観たときの驚きを鮮明に覚えています。映画監督になる前から、いつか作品の主題として扱いたいとはずっと思ってきました。長江の中国文化における意義はとても深く、わたし自身が文学青年であったこともあり、中国の文化・歴史・美の伝統における長江の特別な意義をこのわたしはどう取り扱うかということは、ずっと大きなテーマでした。

 今日の長江は、都市化によって美しさをどんどん失っている最中にあります。中盤では、石灰石で色を塗ったような無残な河岸が映し出されます。人間の手によって日に日に侵食されつつある長江の姿を写し取っていくことは、この映画撮影の重要な目的の一つでもありました。また本作は、明の時代の長江そのものを捉えたという面もあります。その意味では、この映画は長江への挽歌でもある。長江の龍のようなあり方、生命力に満ちたダイナミックな流れがわたし自身は好きでしたが、三峡ダムにより遮断されたことで、だんだん生命力を失っているようにも感じます。ダム建設は、なお現在進行形で長江へ重大なダメージを与えていると考えています。

――物語の重要な背景の一つとして、本編中では「1989年」への言及が度々なされていますね。映画の製作公開で、天安門事件への言及が何か影響を与えたということはありましたか?

 1989年の天安門事件は、確かに主人公2人の背景に深く反映するものの一つでした。しかし天安門事件そのものを直接に焦点化した作品にはなっていないため、特に検閲は受けるなどの影響はありませんでした。意外に思われるかもしれませんが、直接的な言及は終盤に一度あるだけです。

――映画の終盤では、寺院の石像群にまぎれて水面を見渡す女性主人公の後ろ姿が印象的でしたが、物語としては若干難解な箇所だとも感じられました。この場面についてお聞かせください。

 あの場面を撮影したのは長江の河口部にある寺院で、映し出されているのは東シナ海の海原です。その直前のシーンで男の主人公は、長江源流域の荒野で、チベット僧が守る女の墓へたどり着きますね。墓石の山から男がふり返る。すると1980年代の長江を映すドキュメンタリー映像が流れ出します。それらは、非常に生命力に満ちた長江の姿をとらえています。そして女の後ろ姿へと至る。彼女は長江の河口域から、東シナ海の海原を見渡している。つまりこのとき、男と女の間には5000km以上の距離が生じている。しかしここにおいて、2人の間には共通の認識が生じている。男は女が修行を遂げ、心の安寧を見つけたことを感覚します。それは深い宗教的境地とも言えるものです。また主人公の女性安陸(アン・ルー)は、長江の化身とも解釈できます。映画の中盤で、男から「たくさんのひとに愛されてきたね」と問われた彼女は、「わたしもたくさん愛してきた」と答えています。これは男だけでなく「わたしだってあらゆる人間を愛してきた」とも解釈できる。そうしたあたりをどう受け取るかは、各々の観客に委ねています。

――本作は、映像を世界的な撮影監督である李屏賓(リー・ピンビン)が撮ったことでも注目を集めています。李屏賓との共同製作についてお聞かせください。

 李屏賓は撮影のプロフェッショナルであるだけでなく、中国の伝統文化に対する造詣・探求の非常に深い人で、長江を主題化するにあたって彼以外の人選はあり得ませんでした。この映画は中国古来の水墨画的な質感を、欧米由来の映画的技法のうえに現出させる試みでもありました。李屏賓は、アナログフィルムでのみ表現可能な光の柔らかさを効果的に活かし、水墨独特の水と霧の表現を実現しました。また上映環境の面でも、デジタルでは撮れない靄の表現、紫や灰がかったブルーが4K上映により初めて実現しましたが、この4K上映を強く主張したのも彼でした。李屏賓は、この仕事の依頼があったとき、己の使命と感じたことを後に明かしてくれました。それはわたしにとってとても光栄であり、またありがたいことでした。日本の皆さんにも、ぜひ映画館でこの稀有な質感を味わっていただければと願います。

 2月17日よりシネマート新宿、YEBIS GARDEN CINEMA他にて全国順次公開。(ライター 藤本徹)

公式サイト http://cyoukou-ainouta.jp/

 

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