【映画評】 片影のイスラーム 「イスラーム映画祭3」 2018年3月21日

 たった1人で始めたイスラーム映画祭。その3回目となる「イスラーム映画祭3」が、今月東京、4月・名古屋、5月・神戸で開催される。上映作品は前回より拡大し13作品。東はインドネシアから西はモロッコまで、今回も幅広い地域から多様なテーマの作品が集う。

 マスメディアにより報じられる括弧付きの「イスラーム」は、いつも特定の地域・主題に偏りがちだ。今日ならばシリアの内戦やパレスチナの分断などがそれにあたり、本映画祭でもこうした地域やテーマの映画はもちろん上映される。しかしこの「イスラーム映画祭」で注目すべきは、むしろそうした世界の関心領域の外側や周縁に暮らす人々へスポットを当てた作品が目立つことだ。

 例えば古代キリスト教の余韻を強く残すコプト教のコミュニティに育った少年が主人公のエジプト映画『エクスキューズ・マイ・フレンチ』、印パ分離独立後もインドに留まったムスリム一家の苦悩を描く『熱風』などは、イスラーム映画祭が初回から旨としてきた《異なる文化・宗教間の宥和》そのものを主題とする。また報道からは忘れ去られた感も強いアフガニスタンの映画が2本入り、クルド人を描く上映作2本では一方が混乱の続くイラク国内を舞台とし、一方がドイツで生まれた移民2世を作者とするなど、本映画祭は極めて目端の利いた構成となっている。

 またイスラーム映画祭の大きな特徴は、企画責任者の藤本高之さんが、特定の映画配給会社や公的文化機関などに属すことなく、監督や権利者との出品交渉から劇場の手配、関連イベントの立案と施行まですべてを1人で行っている点だ。藤本さんはバックパッカーとしてイスラム圏を旅していた20代の体験から、報道機関が報じるイスラームのイメージとはまるで異なる実の姿を、映画を通して日本の多くの人に知らせたいとこの上映企画を発想したという。

 こうした開催動機が誘い水となり、上映にあわせ催されるトークセッションにおいても非常に多彩な分野からゲストが招かれる。国境なき医師団・看護師の白川優子さん、ムスリムファッションなどの研究者・野中葉さん、映像ジャーナリストの綿井健陽さんなどがその一例だ。「イスラームという宗教をテーマに掲げた映画祭だからこそ、あえて宗教の専門家以外のゲストを会場に招くことで、各々の分野に興味をもつ人々へのフックとする意図がある。また、映画好きの人々が異なる分野へ興味をもつきっかけとなれば良い」と企画者の藤本さんは語る。

 コプト教徒を主人公に据える作品は、「イスラーム映画祭2」でも上映(『敷物と掛布』)されている。マジョリティに囲まれたマイノリティという社会派良作映画に定番の構図は、そのまま日本におけるキリスト教の立ち位置とも重なる。

 藤本さんは物腰も柔らかく穏やかに語るが、その内にいつも熱い芯を感じさせられる。そしてイスラーム文化・イスラーム社会の実の姿を伝えたいという彼の想いは、多くの観客の心を現につかみ出している。そのことは、回を重ねるごとに本映画祭が規模を大きくしていることからもうかがえる。会場に足を運んで、その予想外の熱気に驚く人も少なくないだろう。この機会にシネコンの商業映画とは異なる肌合いの良作映画を、存分にご鑑賞いただきたい。(ライター 藤本徹)

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「イスラーム映画祭3」

◆東京渋谷・ユーロスペース 3月17日(土)~23日(金)
◆名古屋シネマテーク 3月31日(土)~4月6日(金)
◆神戸・元町映画館 4月28日(土)~5月4日(金) 

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