イスラーム映画の歩き方 「イスラーム映画祭」企画者・藤本高之さんインタビュー

 「映画を通じて、イスラームの国々を旅するように感じてほしい」と語る藤本高之さんの企画・主催するイスラーム映画祭。3回目となる今年も、名古屋では4月初週、神戸ではゴールデンウィークに開催される。3月下旬開催の東京会場では、立ち見も出る盛況ぶりだった。

 20代で脱サラし世界を旅して知ったイスラームの文化と、帰国して報道から受けるイスラームの印象とのギャップが、本映画祭の企画へと藤本さんを駆り立てた。「宗教」といえば日本では、比較的ネガティブな印象に直結しがちだ。しかし旅先で触れた信仰の姿は、カルトや怪しげな信仰ビジネスのイメージと結びつきがちな日本のそれとはまるで異なる、とても自然で幸福なものだった。とりわけイスラーム圏に暮らす人々の穏やかさに感銘を受け、等身大のイスラームを日本の人々にもっと知ってほしいと藤本さんは考えた。

 こうした動機に基いて候補に挙がる映画は必然的に、日本ではあまりなじみのない国の、ほぼ無名に近い監督による作品が多くなる。上映のため自力で権利元を探し連絡をとる。条件を整え契約を交わし、フィルム素材や機材の手配を経て、日本語字幕をつけ上映館とも交渉する。これだけの労苦をとっても、当然ながらハリウッドなどの商業娯楽作とは異なり、初めは集客が読めなかった。しかし蓋を開けてみれば、開場前のロビーが黒山の人だかりとなり満席回が続出した。

 2015年の第1回開催での大入り状況には、その1カ月前に起きたパリ同時多発テロで、人々の関心がイスラームへ集中したことも影響したという。2017年の第2回開催では、上映作の構成深化も手伝い客層に若干の変化が見られた。3回目となる今回は西はモロッコから東はインドネシアまで、上映作のレパートリーも作品数もより幅広いものとなった。また上映後のトークイベントでは、「国境なき医師団」の看護師からムスリムファッションの専門家まで、多様なゲストが招かれたこともあり、ふだん映画館へ足を運ばないタイプの来場客も多く見受けられる。

 「イスラーム映画祭なんてまだやってるんだ」と言われるようになるのが目標、と藤本さんは語る。〝世間の話題から消えてからが勝負〟との意気込みを感じさせる力強い言葉だ。ネットフリックスやアマゾンプライムなど、映画のネット配信が急速な普及を見せる今日であればこそ、映画館へわざわざ足を運ぶ体験には、より研ぎ澄まされた価値が要請される。また初回からわずか3年とはいえ、イスラームをめぐって社会の耳目を集めるテーマは「テロ」や「難民」から、より長期的視野を伴う「移民」へのシフトを見せている。このような時流にも藤本さんは自覚的で、例えば事前のSNSでの反響に対応して上映スケジュールを組むなど、極めて繊細に対応する。

 個人レベルでのこうした意気込みや手際の繊細さは、しかしイスラーム映画祭という幹を中軸に個の枠を超えたつながりの輪をすでに広げ出し、映画祭の中身をより濃く深いものへと進化させ始めている。一般の商業上映に比べて、関わる人の情熱が駆動力となるこうした映画祭企画が、観客に生涯の一作と言えるような作品との出逢いを多くもたらし得ることは言を俟たない。学生時代の藤本さんが、まだ見ぬ土地の面影に映画館で初めて触れ、やがて旅立ったように、イスラーム映画祭の銀幕に映り出る、異なる信仰のもと祈る人々の姿に想いを深くする観客は今後も増え続けるだろう。(ライター 藤本徹)

「イスラーム映画祭3」公式HP http://islamicff.com/
◆東京渋谷・ユーロスペース 3月17日(土)~23日(金)*終了
◆名古屋シネマテーク 3月31日(土)~4月6日(金)
◆神戸・元町映画館 4月28日(土)~5月4日(金)

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