Web新時代の到来? 「クリスチャンプレス」「ワードオブライフ」 問われるキリスト教メディア 2018年6月11日

 キリスト教オンラインメディアとして「月間40万ページビュー(閲覧数)」を誇ってきた「クリスチャントゥデイ」。その背景と不透明な資金の流れをめぐる騒動から数カ月。事態は思わぬ展開を迎えた。元編集長の雜賀(さいか)信行氏を含む従業員らが、日本聖書協会(渡部信総主事)メディア部のスタッフとして新たなキリスト教ニュースサイト「クリスチャンプレス」を立ち上げた。エキュメニカルな立場から、米福音派の「クリスチャニティ・トゥデイ」と提携し、海外の情報も翻訳、報道するという。

 いのちのことば社(岩本信一社長)が今年1月に公開した「ワードオブライフ」は、既存媒体に掲載した記事の一部をオンライン上で閲覧可能にしたもの。同サイトも「クリスチャンプレス」公開と同じタイミングでリニューアルされ、互いにネット上での存在感をどう維持できるかが課題になっている。新しい時代のキリスト教メディアのあり方が、さらに問われることになりそうだ。

業界全体の発信力は向上するか?
「中立性」「収益性」への疑問拭えず

 6月1日の公開に先立ち、5月21日に同協会(東京都中央区)で行われた「クリスチャンプレス」の記者発表会では、「聖書協会世界連盟の一員として、ニケア・カルケドン信条と使徒信条の信仰告白に基づき、聖書翻訳、出版、頒布を通じて諸キリスト教会を支援し、聖書に記された福音を宣べ伝えるために、中立で、かつグローバルな観点からすべての人々に仕え、日本におけるその使命を果たしたい」とする設立趣旨に加え、スタッフの契約は3カ月を一応の目途とし、初期費用は同協会が負担すること、事業はその後も継続する予定であることなどが説明された。

 また、ここでの「中立」とは、「特定の教派的立場に偏らず、すべての違いを受け入れ、それぞれの教派・団体を公平に扱い、バランスを取る」との意図であることが確認され、「人の徳を高める報道をしたい。批判や誹謗は避けて事実のみを報じる」との方針も提示された。記事の取捨選択、内容、方向性は同協会の総主事、理事会が独自の立場で責任を持って判断するという。

 立ち上げから3年で月間2千万ページビューを超えてもなお赤字だというデジタルメディア「バズフィードジャパン」の記者からは、収益性についての率直な疑問が呈された。これに対し渡部氏は「赤字で運用していくつもりはない」と断言しながらも、具体的な数値目標や黒字化までの計画などには言及せず、「公開は無料だが、読者が増えれば宣伝のツールにもなる。広告収入による収益を見込んでおり、広く読まれるサイトになればさらに拡大していきたい。営業利益ももちろん考えるが、キリスト教界のニュースを伝えるというのは大切な使命。良い仕事であれば実を結ぶとの思いで決心した。財政的な苦労はスタッフにも負っていただくが、わたしたちはそれを応援していく」と応じた。質疑では終始、「神の導き」「覚悟」が強調された。

 「クリスチャンプレス」でも編集長の任を負うことになった雜賀氏は、「読者はネット上にたくさんいるはずだが、既存のキリスト教メディアが伝えてきたものは分かりにくく、読んでも興味を持てるまで書き切れていない」と指摘。「新たなメディアを作ることに業界としてのメリットはあるのか」「既存メディアとの差別化をどう図るのか」との問いには、「ライバルを作って足を引っ張りたいわけではない。守りに入るか攻めて前に出るかの違い」と答えた。

 同席した『宗教問題』誌(合同会社宗教問題)記者が、「収益性も計画性も見えない事業に、信者の貴重な浄財をみすみすつぎ込むことにならないかとの疑問が拭えない。中立を担保して教会の不祥事は書けるのか」と問うと、「(紙の)聖書を頒布することほどお金のかかる事業はないが、ネットはむしろコストがかからないし、やりやすいと考えている。聖書協会としては時代を先取りした感じ。この路線で間違いないという確信はあるので、多少の苦労はあってもやり遂げたい」と渡部氏。

 「クリスチャントゥデイ」との関わりについては、「(元従業員が)辞めた経緯などを含め、お答えできる立場にない」として明言を避けた。会場にはクリスチャントゥデイ社長の矢田喬大氏も出席したが発言はなかった。

 同協会は11月にキリスト教視聴覚センター(AVACO)と合併する予定で、「録音、撮影スタジオもあるので、ニュースサイトが成長すれば、映像部門も手がけられるかもしれない」と加えた。

 この日の発表会では、日本基督教団、日本聖公会、日本カトリック司教協議会、日本福音同盟、日本ハリストス正教会教団など主要な教団・教派、キリスト教出版社からの祝辞も披露された。

 一方、主に「クリスチャン新聞」からニュースの一部をオンライン上に載せてきたいのちのことば社は、新設した「ワードオブライフ」で、ニュースだけでなく、同社媒体(月刊「百万人の福音」、月刊「クリスチャン新聞福音版」、月刊「いのちのことば」など)の一部も無料で公開することに踏み切った。過去のコンテンツで関心の高い記事、実用性があり有意義な特集記事なども提供し、将来的には有料のコンテンツを取り扱うことも検討するという。

 また、他メディアとの違いについては「弊社の総合力を活かすポータルサイト的な性格なので、他のニュースサイトとは競合しない。相互に切磋琢磨しつつ各メディアが質や内容を向上させ、共存共栄しながらキリスト教界全体の発信力を高めていければ」としている。

 「膨大な時間と労力をかけた情報が、本来伝えるべき人に伝わっていないという実感が近年強くなっていた」と漏らす担当者。「ネットメディアはその性格上、見せ方を工夫すれば読者層は必ずしもクリスチャンに限定されず、幅広く不特定多数の人々に福音のメッセージや情報を届けられる可能性を秘めている。人口の1%に満たないクリスチャンをもっぱら対象にしてきた従来の『キリスト教出版社・メデイア』の枠を越えて、多くの人々に福音を届けるメディアの可能性を広げていきたい」と意気込む。

 「ワードオブライフ」は、ネットで情報を検索する人々の利用を意識しつつ、できるだけ幅広く多くの人々の関心に応えられるよう、元の媒体に掲載された時とは別の見出しを付けるなどの工夫も凝らしている。

 及ばずながら弊紙「キリスト新聞」も、昨年の紙面リニューアル以降、オンライン上での発信に力を注いできた。しかし、マネタイズ(収益化)の面では未だ困難も多い。今後、狭いキリスト教業界の中でどのような棲み分けと協力が可能なのか。それぞれが越えるべき課題と真摯に向き合い、必要とされる働きをより継続的に担えるような環境づくりに邁進したい。(本紙・松谷信司)

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