「迷える時代」だからこそ 精神科医・香山リカ氏が語る教会への〝期待〟 2018年9月21日

 多数の著作の中で、初のキリスト教書となる『迷える社会と迷えるわたし』(キリスト新聞社)を出版した精神科医の香山リカ氏(立教大学教授)。長く教会に通い「求道生活」を続ける立場から「迷える時代」を生き抜くために必要な知恵と、教会やキリスト者が持つ可能性について提言してもらおうと、公開講演会「迷える時代を生きる――精神科医として、求道者として」が9月4日、お茶の水クリスチャンセンター(東京都千代田区)で開かれた。

 主催したのは、教文館、新教出版社などキリスト教書を出版してきた版元を含め、専門書店、取次(日キ販)が加盟するキリスト教出版販売協会。毎年夏に開いてきた例会内のプログラムとして企画されたもので、一般の読者にもキリスト書に関心を持ってもらおうと昨年に続き公開の催しとして行われた。

信仰者だからこそ持ち得る強さ
〝生命倫理の問題にも積極的な発言を〟

 香山氏は自身の教会との接点を振り返りつつ、「かけがえのない存在でいたい」という強迫観念に駆られる若い世代の承認欲求、多死社会における高齢者の悩みや遺族の悲嘆、暴走する科学技術などの側面から「今こそキリスト教の出番」と参加した信徒らを激励した。

 また、『おひとりさまvs.ひとりの哲学』(朝日新聞出版)で宗教学者の山折哲雄氏と対談した社会学者の上野千鶴子氏が、「ブルータス、お前もか」と題する章で、年老いてから宗教に傾倒した言論人を糾弾していることを引き合いに、「宗教は此岸の問題を放棄し、彼岸に逃避してしまうというイメージがあるが、決してそんなことはない」と宗教者を擁護。

 カトリックの聖職者が著した『科学者はなぜ神を信じるのか』(講談社)も紹介し、信仰と科学は両立し得ることを強調した上で、「『宗教は思考停止、近代科学を否定するもの』という誤解を解き、西洋医学を否定するような民間療法の弊害についても、教会の立場から警鐘を鳴らすことができるのではないか」と指摘した。

 とりわけ、膨大な遺伝情報を解読できるまでに技術が発展し、多くのベンチャー企業がそれらを利用するビジネスを展開し始めていることから、遺伝情報を書き換える技術が軍事転用されることによって、特定の民族を死滅させるような危険性もあるとし、「宗教者は『信仰的にどう解釈するか』という独自の視点を持ち得る。生命倫理の問題にも積極的な発言をしてほしい」「キリスト教の考えをストレートに発信した方が、一般社会では素直に受け止めてもらえるのではないか。信仰者だからこそ持つ揺るぎない強さがある」と訴えた。

 続く9月10日には、聖学院大学(埼玉県上尾市)で開かれた同大学総合研究所主催の牧会サマーセミナーでも「今、語り合いたい教会のこと、牧師のこと――精神科医として」と題して講演。教派を超えて参加した20人の牧師を相手に、精神科医としての助言と問題提起を行った。

 2日間で3万人以上が来場する「癒しフェア」を例に、「大きな力にすがりたい」「自分を肯定してほしい」と願う人々が多いことに触れ、彼らにとって「なぜキリスト教(教会)ではだめなのか」との問いを提起した香山氏。

 キリスト教学校に勤務する中でチャペルでの礼拝を勧めるものの、学生からの反応は「宗教は怖い、洗脳されそう」「お墓がお寺にある」「教会はマジメな人が多く怒られそう」「聖書は厚くて難しそう」など。世間の「癒しブーム」とは裏腹に教会には接点を見出せないという現実とその要因について考察した。

 精神的な病を持った信徒に接する際に留意すべきこととして、「医療・薬を警戒しすぎない」「教会でできること、医療でできることの峻別」「病気に先入観を持たず対個人として接する」「距離を置くべきところは距離を置く」などを挙げ、牧師も人間であることを自覚しつつ、ストレスも受け、病気にもなり得ること、家族もいること、その家族がキリスト者とは限らないこと、世俗の付き合いもあることなどを考慮し、「ワーク・ライフ・バランス」を考える必要性を説いた。

 最後に、「出入り自由」のキリスト教はあり得るのか、教会は「パワースポット」になれないのか、牧師がAIではダメな理由は何かなど、今後キリスト教界でも課題となり得る論点を提起した。

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