【新春連続インタビュー〝志〟継いで未来へ】 一人ひとりの命が大切にされる世界を 畑野研太郎さん(日本キリスト教海外医療協力会会長) 2020年1月21日

 新年を迎え、過去の歴史的教訓に学びつつ先人たちの志を継いで新たな歩みを始めようと決意する面々に話を聞く連続インタビュー。2回目は昨年12月、銃撃を受けて急逝したペシャワール会現地代表の中村哲さんが、かつて派遣医師として勤務していた日本キリスト教海外医療協力会(JOCS)の会長として「メッセージ」を発表した畑野研太郎さん。

〝行動で示し続けたい〟
たとえ小さな歩みであろうとも

――「会長メッセージ」に込めた思いを改めてうかがえますか?

 あの文を書いたのは中村哲兄の逝去から2日目で、正直なところ頭は白紙に近い状態でした。彼との思い出と、彼の書いた文章や講演の言葉が、いろいろに頭の中をめぐっていました。彼の死は確かにあり得ることではありましたが、それが起こるとは誰も心底からは信じていませんでした。テロは今の時代にはあり得ることで、その危険性を無視することはできません。JOCSでもダッカ事件の約10カ月前(バングラデシュのランプルで星邦男さんがISを名乗る犯人に殺害された事件があった)から、バングラデシュ派遣ワーカーの姉妹たちの安全については、最も心にかかる重い課題となっていました。特にダッカのテロ事件後には、2人の女性ワーカーを交えて、東京で臨時理事会を開催して方針を話し合いました。JOCSのワーカーのためには毎朝「ワーカー、カウンターパート、関係する人たちが、安全にあなたから与えられたご用に当たれますように」とお祈りを続けていましたが、彼の名前をことさらに挙げて祈っていなかったことを後悔しました。

 彼が亡くなったと知った時、本当に「無念」だっただろうとまず感じました。彼の召命は、何よりもこの地に「平和」を築くことだという点にあります。そして、私たちの先を力強く歩む先達であると感じていました。彼の存在が私に勇気を与えてくれていました。

――中村さんとの出会い、思い出などで印象に残っていることを詳しくお聞かせいただけますか?

 最初に哲兄に出会ったのは、共に30代でこれから途上国に派遣される前、国立療養所邑久光明園でのハンセン病の研修の場でした。彼は私より1年早く、約3カ月間、邑久光明園での研修を受けていました。その時、専門家のハンセン病に関する授業が彼のために行われましたが、当時、淀川キリスト教病院に勤めていた私にも、JOCSの派遣から帰国後、園で働いておられた先輩医師から「哲兄が一人で授業を聞くのはもったいないので、あなたも休暇を取って来なさい」との指令めいた連絡があり、彼と机を並べて講義を受ける機会が与えられたのが最初でした。夜は、園長や先輩たちにご馳走してもらって、哲兄が宿泊しているお客のための宿舎に泊めていただきました。

 次に長く兄と話し合えたのは、タイ国で行われた「第2回海外保健医療協力者会議」の1週間でした。4人ほどでバンガローに分宿したのですが、会議期間中は兄と同じバンガローで生活することができました。どちらも30代後半(哲兄は私の2歳年上)で、これから海外派遣ワーカーとして途上国に出かける前であり、ハンセン病を中心に働く可能性が高いといった共通点があったこと、特にすでに派遣が決まっている兄から私に良い影響が与えられるのではないかといった、先輩たちの配慮があったのだと思います。それ以外にも共通の傾向がいろいろありましたが、話し合う中から、学生時代の過ごし方や物事の感じ方など、多くの共通点を見出すことができました。短い期間ではありましたが、とても充実した時でした。

 お互いに海外での生活が始まってからは、たまに帰国時期が重なり、特に「日本キリスト者医科連盟」の総会などで顔を合わせることもありましたが、直接に話をする機会はあまりないまま過ごしました。

 その後、少しじっくりと出会うことができた機会は、「第4回海外保健医療協力者会議」(やはりタイ国で行われた)に、すでにJOCSを離れて「ペシャワール会の中村哲」として活動を広げていた兄を、講演・助言者としてお招きした時と、岡山での日本ハンセン病学会の市民講座の講演者としてお招きした夜くらいでした。

――私たちが中村さんから引き継ぐべきこと、学ぶべきことについて教えてください。

 大きくも小さくも、世界でのことでも身近なことでも、イエス様の示された平和を目指すことだと思っています。私たちJOCSも、「みんなで生きる」世界、真に平和な世界をめざして歩んできました。皆が健康に生きることのできる世界を共に夢見ていました。哲兄は、医療から始めて水と食料の確保をも実現する道を選ばれました。その道を、たゆまず曲がらず真っ直ぐに歩まれました。私たちも、たとえ小さな歩みであろうとも、一人ひとりの命が大切にされる世界を目指して歩み続けるということを引き継ぐべきだろうと思います。

 ご葬儀の折、息子さんは兄の言葉として「行動を伴わない者は信じない」という言葉を告げてくれました。行動で示し続けたいと思います。

――今日の国際情勢(特に中東情勢)と課題をどう見ておられますか?

 個人的な意見を言わせていただけるなら、国際情勢は本当に悲しい状況であると思います。利己主義=原罪が、世界を引き裂いている。格差問題も、地球温暖化も、戦争も、すべて主イエスの教えから遠ざかっている人間の罪が紡ぎ出したものであると思います。イエスの名前すら自己正当化のために誤って用いられていることがあるほど、悲しい状況であると思います。

――そのような現代社会で医療者として、またキリスト者として果たすべき役割(できること)は何でしょうか。

 具体的な役割は個々に与えられた召命の場によって千差万別ですから答えるのは難しいのですが、どういった場に召し出されているか、いま出会うべき隣人と向き合っているか、この場において主は何をお求めになっているか、その答えを生活の瞬間瞬間の祈りの中で、求め続けることが必要だと思います。その指し示された方向は、すでに述べたように「一人ひとりの命が大切にされているか」「平和をつくりだす」ものであるか、ということにかかっていると思います。

――ありがとうございました。

JOCSのワーカーだったころの中村哲さん(左)と畑野さん

 

中村哲さんが派遣医師として勤務 日本キリスト教海外医療協力会が会長メッセージ 2019年12月6日

特集一覧ページへ

特集の最新記事一覧

TO TOP