【東アジアのリアル】 香港デモ続報 台湾とのつながり 倉田明子 2020年2月1日

 前回筆者が本コーナーで香港の抗議運動のことを書いてから半年が経った。香港では今も運動が継続中である。この間、運動は全香港に拡散し、同時に世界に向けて彼らの危機感をアピールしてきた。米中貿易戦争に香港が重要なカードとして入り込み、昨年11 月にはアメリカで「香港民主人権法案」が成立したこと、また今年1月に台湾で蔡英文総統が再選を果たしたことなどは、今回の香港の運動の影響抜きには考えられない。また、香港自身も昨年11 月の区議会選挙で民主派が圧倒的な勝利を収めたことで、香港政府や中国政府が期待した「民意の逆転」が起こっていないことを世界に印象付けた。

 他方で香港の中では毎週末のように各地で抗議活動が行われ、ほとんどの局面で警察との衝突に発展している。特に昨年10月、11月には若者が警官に実弾で撃たれ重傷を負ったり、香港中文大学や香港理工大学では戦場さながらの攻防戦が繰り広げられたりした。11 月末の現地報道では半年間で香港警察が撃った催涙弾の数は約1万発にも達し、逮捕者は12月中旬時点で6千人を超えた。これまで最前線で実力行使をもって警察と対峙してきた「勇武」派と呼ばれる若者たちは、大学攻防戦で大量の逮捕者を出し、大打撃を受けた。12月以降も大規模デモは続いており、香港の抗議運動が収束したわけではないことは明らかだが、少なくとも勇武派の後退という形で今回の運動がまた一つモードを変えたことも確かであろう。

2019年11月24日の区議会選挙で投票所に列を作る人々(筆者撮影)

 香港のキリスト教会と今回の一連の抗議運動との関わり方はさまざまである。教会指導者であれ信徒であれ、デモ支持と不支持の立場の違いは鮮明にあり、それは時に教会内でも深刻な分断を生んだと言われる。もっとも、デモを支持しない教会関係者の中には、これまで中国大陸の教会との関係を築いてきたがゆえに、その関係を壊すわけにはいかない、中国を一概に敵視するデモの若者に反発を覚える、といった事情もあるように思える。

 また、昨年10月には今回の運動の発端となる殺人事件を起こした香港人男性(台湾で恋人を殺害後、香港に逃亡、引き渡し条例がないため香港で微罪により投獄)が釈放されたが、彼に台湾への「自首」を説得し、この事件のある種の政治解決を図ろうと尽力したのは、香港の聖公会の指導者であった。こうした「親政府」的な教会関係者の存在も、長期的な視野においては何らかの意味を持つことになるのかもしれない。

 一方、先に述べた勇武派の若者の後退に関連して、彼らの運命に大きな影響を与えている存在の一つにやはりキリスト教がある。しかもその一角を台湾の教会が担いつつある。報道によれば、特に昨年7月1日の立法会突入事件以後、現場にいた若者が身の危険を感じて台湾に逃げ込むケースが見られ始めた。現在までに200人以上の若者が台湾で逃亡生活を送っているといわれる。

 彼らの支援をしている人物として最近メディアに顔と名前が出ているのが、台北の済南基督長老教会の黄春生牧師である。香港の自宅に警察の捜査が入るなど、もう香港に戻ることが難しい若者たちに台湾での宿泊先を提供し、台湾の大学への留学ができるように支援しているという。また、台湾の人々から寄せられる寄付金や支援物資を香港に送る活動なども行っている。黄牧師は台湾メディアのインタビューで「私たちは中国と台湾(の異議を唱える人々)にだけ関心を持っているわけではありません。台湾でも私たちはかつて、政治的受難者に心を寄せてきました。人権や不正義に心を砕くことは、キリスト教信仰の価値観の核心です」と述べている。この数年、香港と台湾の間で急速に互いへのシンパシーが高まっているが、キリスト教的文脈においてもそれは確かに息づいている。

倉田明子
 くらた・あきこ 1976年、埼玉生まれ。東京外国語大学総合国際学研究院准教授。東京大学教養学部教養学科卒、同大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程修了、博士(学術)。学生時代に北京で1年、香港で3年を過ごす。愛猫家。専門は中国近代史(太平天国史、プロテスタント史、香港・華南地域研究)。

【東アジアのリアル】 続く香港デモとキリスト者の「義憤」 倉田明子 2019年8月1日

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