【宗教リテラシー向上委員会】 お寺グッズで信仰をリノベーション 池口龍法 2020年2月21日

 「東急ハンズ渋谷店にお寺を作りたい!」と、ジュエドル・まりスティーヌ。さんに誘ってもらったのが昨年6月。ユニークなグッズを制作したりコンテンツを作ったりしている知人たちに声をかけまくり、1月24日から2月2日までの10日間、「渋谷ハンズお寺サークル」を展開した。店舗入ってすぐのB2Cフロアの約半分をお寺コンテンツでジャックする破天荒な企画。ディスプレイに並んだのは伝統的な仏壇や仏具ではなく、萌え御朱印や仏像フィギュア、そして、私が監修した日めくりカレンダー「スター坊主めくり」などの超個性的なラインナップ。お店に来た人々がつい目を奪われ、足を止めているのを見た時には、思わずニヤリと笑みがこぼれた。

 東急ハンズ渋谷店の担当者もノリノリで、グッズ販売だけでは飽き足らず、「せっかくならお客さんにがっつり修行してもらいたい」と熱望。最上階のエレベーターホール前で、坐禅や声明などを詰め込んだ4時間半に及ぶ「修行体験ワークショップ」を開催させてくださった。

 東急ハンズで修行するシュールな面白さが伝わり切らなかったのか、修行体験ワークショップへの参加者こそ伸び悩んだが、売上は順調に推移して目標額をクリアした。お店からも「人の役に立つ企画ができてよかった」と喜ばれ、ほっとしながら本稿を書いている。

 とはいえ、長年の伝統を持つ仏教。売上が伸びれば何をやってもいいわけではない。カジュアルなお寺グッズを見た時に頭をよぎるのが、信心深いご年配のお坊さんや檀家さんの顔。ややもすると「仏教を馬鹿にするな」との怒声が飛んできそうである。しかし、私の知る限り、グッズ開発に携わる人は皆、単なる遊び心ではなく、仏教を生活に取り入れる糸口を真剣に模索している。そして私も、今こそこのムーブメントを高めていくべき時期だと考える。

 法話でよく「親が拝めば 子が拝む 拝む姿の美しさ」という言葉が語られる。信仰の芽を育むには何よりも家庭内の情操教育が肝要だというのは、いつの時代にも変わらない真理だろう。とはいえ、時代によってライフスタイルが異なる。2世代、3世代前なら、朝起きたら仏壇を開けて、ご飯を供え、手を合わせ、「拝む」ことから生活のリズムを作るのが当然だった。したがって、「家を新築するときは仏間を中心に設計すべし」という古き良き格言もあったが、もはや耳にすることはない。

 いまや家庭の大半には仏壇がない。仮に安置しようにも、マンションでは立派な仏壇を置くスペースが想定されていない。両親が大切に祀ってきた仏壇でも「私たちの家には置き場がない」と容赦なく買い替えられる。あっさりした時代である。それでも信仰をライフスタイルの隅々にまで取り込み、拝む姿を見せ合いながら生きていくには、現代にふさわしいグッズがどうしても必要だ。

 幸いなことに、ここ数年、冒頭に書いたような新しいお寺グッズを手掛ける企業が増え、家庭内の信仰をリノベーションする機運は高まってきた。東急ハンズでの企画展の成功はこの流れをさらに加速させるだろう。つくづく面白い時期に来ている。生活の中心が仏間からリビングに移っているなら、リビングにお坊さんの載ったカレンダーを置いて、毎日ありがたい言葉をもらう人もあるだろう。玄関先に仏像フィギュアを飾って「行ってきます」「ただいま」とあいさつする人もあるだろう。拝む姿が日常の中に復活する日が、そう遠くない将来に訪れる予感がしている。

池口龍法(浄土宗龍岸寺住職)
 いけぐち・りゅうほう 1980年、兵庫県生まれ。京都大学大学院中退後、知恩院に奉職。2009年に超宗派の若手僧侶を中心に「フリースタイルな僧侶たち」を発足させ代表に就任、フリーマガジンの発行などに取り組む(~15年3月)。著書に『お寺に行こう! 坊主が選んだ「寺」の処方箋』(講談社)/趣味:クラシック音楽

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