特別寄稿 礼拝を中継する際に気をつけたいこと 『もっと教会を行きやすく~』の八木谷涼子さん 教会のライブ配信ウォッチ 2020年4月11日

 全国150以上の教会の礼拝に出席し、ノンクリスチャンの視点から「もっと行きやすくする」ための、さまざまな提言をし続ける八木谷涼子さん。新型コロナウイルスの影響を受け、オンライン上で礼拝をライブ配信する教会が増え、家にいながらにして他教派の礼拝にも触れられる機会が格段に広がった。複数のライブ配信を視聴した八木谷さんに、教会が気をつけるべきことを聞いた。

 私はここ10年ほど、教会に行かない日曜日は自宅のパソコンでさまざまな礼拝のライブ配信をよく見ている。

 今年、2020年は特別な年になった。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、今までネット中継に消極的だった教会も、こぞってライブ配信に参入しているからだ。先週よりも今週、さらに次の週と、同じ教会の中継技術がどんどん向上していくのを見るのは、めったにない経験だ。配信のノウハウを共有する、教派を超えた試みも日に日に整ってきている。

 おもにプロテスタント教会の配信を見ていて、思うことを二つ挙げてみる。

礼拝出席者のプライバシー

 1番目は、出席者のプライバシーの問題だ。もし、視聴者を限定しないかたちで普段の礼拝をまるごと配信するならば、この問題は避けて通れない。

 それが動画であるなら、必ず牧師や司式者が画面に登場する。彼らの了解なくしてネット中継はあり得ない。では、他の出席者(教会員)の了解は得られているだろうか。

 会衆席に座る人たちをフレームに入れている教会がある。また、個人名や個人事情を含んだ祈祷や、報告タイムをそのまま公開している教会がある。もちろん、その教会のメンバーが承認済みであれば問題ないが、もしそうでないなら、一考を要するだろう。

 少し前の話だが、教会員ではない人、すなわち新来会者の紹介タイムまでそのまま中継していた教会があった。つまり、その日初めて来た人の名前が読み上げられていたのだが、それは、ネットで公にしていい情報とはとうてい思えない。その教会がその後、紹介タイムの音声をミュートするようになった時はほっとした。

 プライバシーを気にしないで配信する方法はいくつかある。まず、視聴者をふだん礼拝に来ている人のみに絞ること(実際に、パスワードをかけて限定公開としている教会がある)。もしくは、公開する内容を絞ることだ(会衆席は映さない、報告タイムに入る前に配信を終了するなど。特に、礼拝後ではなく礼拝半ばに報告を行っている教会は要注意)。アーカイブを残さず、その時間限りのライブ配信にとどめるのも一つの方法だろう。

 幸か不幸か、感染症対策としていわゆる「無会衆礼拝」が増えたため、いま礼拝参加者のプライバシーはあまり気にしなくてすむ状況になっている。とはいえ、一度は役員会でしっかり話し合っておくべき問題だと思う(例えば、礼拝中に執行する洗礼式をそのまま中継することの是非など)。

音声の質こそが肝

 配信の視聴で注目していることの2番目は、音声である。公共放送なみにクリアな教会もあれば、ほとんど聞き取れない教会もある。極論すれば、その教会の「予算」と「意欲」がダイレクトに反映されるのがここだ。

 ライブ配信の肝(きも)は、いちもにもなく音声である。たとえ映像の質が高くても、著名人が登場しても、音声が切れ切れだとか反響音が強すぎて聞き取りに労力がいるようなら、すべては台無しだ。

 特にプロテスタントの礼拝において、ことばが聞き取れない――つまり説教の内容が伝わらないような配信は、致命的といえる。お金や手間をかけるなら、まず音質の向上のためにかけるべきだ。カメラや字幕の心配は、その次でいい。

 ただしこれも、その教会の事情次第。そもそも、なんのために、誰に向けてライブ配信を行うのか? なかには音声は二の次、「その場に来られない教会員に、ただ礼拝堂の様子を見てもらう」ことを目的とする教会もある。

 視聴者の想定はきわめて重要だ。誰を想定するかで、配慮の方向が変わってくるからだ。教会初心者に届けることを目指すなら、例えば式文や歌詞の字幕をつけたり、講壇の横にスクリーンを置いて式次第を映すといった工夫をすることで、より分かりやすい配信になる。固定メンバーだけを対象にするなら、週報や説教要旨を個別にメール送付したり、ネット環境のない人には音声をCDなどに焼いて届けるといったフォローが考えられる。また、これは無会衆礼拝の場合に限定されるが、とにかく「牧師の説教だけ」を届けたければ、いつもの講壇ポジションにこだわらず、音の反響の少ない小部屋から発信する方法もある。

 いずれの場合も、実際に視聴する人の意見を聞いてみるのが肝要だ。私の想像だが、案外、音に関しては教会員の評価は穏やかで、外部の人からの感想は厳しめになるかもしれない。というのも、ふだんから音の響きすぎる建物で礼拝している教会も実在するからだ。教会員の方々は、慣れ親しんだ場の外で視聴することで、音声についての新しい発見があるかもしれない。

 最後に、教会の方々へ。礼拝のネット配信をしても、どうせ関係者以外誰も見てやしない、などとはゆめゆめお考えになりませぬように。見ている人はいます。牧師や役員さんたちが配信のために費やしている陰の努力も、きっと誰かが見ています。(やぎたに ・りょうこ)

【既刊】『もっと教会を行きやすくする本 -「新来者」から日本のキリスト教界へ』●第3刷● 八木谷涼子

写真提供=日本キリスト教会香里園教会

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