【日本人のみたキリスト教「今昔」】第2回 「他を見て自己を知れ」宗教哲学者・藤田富雄 2020年5月27日

 オリエンス宗教研究所は、1948年以来、カトリック修道会「淳心会(1862年創立スクート会)」が運営する研究・出版団体である。『共同訳聖書』発行で活躍した。またミサの手引き「聖書と典礼」の発行元として知る人もあるだろう。

 本連載は、同所発行の鈴木範久/ヨゼフ・J・スパー共編『日本人のみたキリスト教』(同所、1968年)を手がかりに、社会にある教会の「今昔」を問う。本書の前半部分で、1968年、著名な学者12人が以下四つの質問に答えている。

1.今までに日本のキリスト教とどのような関係があったか?
2.キリスト教が日本社会で果たしている役割とは?
3.日本でのキリスト教低迷の原因とは?
4.今後、日本のキリスト教の課題は?

 半世紀以上前に語られた「外側からみた日本のキリスト教」という提言、またそれに伴う問いかけに、いま次世代の教会はどのように答えられるだろうか。

第2回 宗教学者・藤田富雄(1923~2010年)

 藤田富雄は、立教大学で哲学や宗教学を講じた学者である。日本宗教学会だけでなく、日本ラテンアメリカ学会、比較思想学会に属した。

 後輩にあたるアッシリア学者・月本昭男は、弔辞において藤田をこのように偲んでいる。「学生たちと卒業後までも人間味あふれる交流をもち続け」「よい意味でのオプティミストであり続け」「学問的な業績もさることながら、それ以上に、先生の温かなお人柄に触れさせていただいた」。つまり、藤田は一流の教育者でもあった。しかし、その藤田の回答は、なかなか鋭い。

 藤田は浄土真宗「安芸門徒」の家庭に生まれた。「1.キリスト教との関係」は、父があるクリスチャン弁護士をほめていた記憶もあり、好意的だった。旧制高校にて内村鑑三の弟子・無教会の三谷隆正に出会い、ルター訳・ドイツ語聖書を読み、戦時下でも無教会系の人々が「信仰に生きて良心的であるように思えた」。その後、立教大学にて講じるにようになった。

 「2.キリスト教が日本で果たした役割」という問いに対して、藤田の答えは厳しい。「戦後の日本では、アメリカと民主主義とが同一視されたように、キリスト教もそれと同一の線上で受け容れられてきた」「体制に奉仕する役割は果たしてきたが、本来の宗教独自の役割と言う点はない」という。一方で、「土着化の問題などが生じてきたのは、やっとキリスト教が英米のキリスト教ではなく、日本のキリスト教としての役割を果すという自覚をもつようになった」と今後への期待を示す。

 キリスト教「3.低迷の原因」については「その布教法」だとズバリ突く。「サラリーマン化した神父や牧師の態度が問題」「信者の側も……世話をしてあげるんだという思いあがりと、冷やかさと表裏一体をなしている」「画一的に外国の諸制度をそのまま日本社会にもち込んだことに無理があり」と身もフタもない。

 さらに「キリスト教の女子教育が、日本においてともかく成功していると考えられるのは、日本社会の体制側の良妻賢母型の教育の要求と、教会側の上からの押し付けの体制と、女子の受動的な態度との兼ねあいがうまく一致したから」と容赦ない。

 藤田は、これらの要因としてキリスト教が「外来の宗教としてのよそもの意識を脱却していないからだ」「解体された社会のメンバーに新しい社会のへのビジョンを呼びおこすような、宗教本来の使命を果さなければならないのに……見当はずれのことを気にしすぎている」と指摘する。

 思わず「もうやめて! とっくにこっちのライフはゼロよ!」と叫びたくなるが、「4.今後の課題」については、こう語る。「布教法の面で、伝道者と信者の態度を改める必要があります」「失礼ですが、クリスチャン自身が思いあがりや独りよがりを改めて、キリスト教の本来の信仰を深める努力をしていただきたい」「その手段として、もっと他の宗教を知ることが肝要です」

 藤田によれば、キリスト教は日本の諸宗教に自己を知る機会を与えてきたのに、当のキリスト教は他を知ろうとしなかった。しかし、日本の諸宗教をよく知ることが、自己自身を知ることになる。

 応答を通して、藤田が日本のキリスト教に求めていたものは、欧米のマネではなく、独立不羈の日本人教会だったと見受けられる。50年後の今、SNS全盛期において、少なくともお高くとまったキリスト教ではなくなっただろう。また他宗教のことも、以前よりも多くの人が学ぶようになった気がする。

 良い意味でのオプティミスト・藤田富雄の目に現在とこれからの日本語キリスト教の姿は、どのように映っているのだろう。半世紀前の宗教哲学者からのお叱りに、あなたはどのように答えるだろうか。

文・写真 波勢邦生/編集部

【日本人のみたキリスト教「今昔」】第1回 「未来にビジョンを」民俗学者・堀 一郎 2020年4月30日

本文引用は、鈴木範久/ヨゼフ・J・スパー共編『日本人のみたキリスト教』より

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