【宗教リテラシー向上委員会】 イスラエルからの「メリー・クリスマス!」 山森みか 2020年12月25日

 イスラエル、とりわけユダヤ人が多い地域に住んでいると、クリスマスを祝う雰囲気を感じることはほぼない。毎年ほぼ同時期にユダヤ教のハヌカ祭があり(2020年は12月10日から18日)、8日のあいだ毎日燭台に1本ずつ点灯していくので多少似た雰囲気はあるが、それはクリスマスとは別物である。我が家は毎年ごく小さいプラスチック製のクリスマスツリーを飾るのだが、近所の人が「子どもが見たことがないというので、ちょっと見せてやってほしい」と言って訪ねてくるほどだ。

 クリスマスに対するユダヤ人の思いは複雑である。その背景にあるのは、キリスト教徒がユダヤ人に対して行ってきた迫害の歴史である。イスラエルには、キリスト教徒にはひどい目にあわされたという体験を世代を超えて共有している人々が住んでいる。その結果娘の通うエルサレムの音楽大学では、クリスマス・キャロルや、キリスト教音楽についての授業になると、教員に抗議したり教室を出て行ったりする学生がいるという。公的な場所にクリスマスツリーを飾るか否かも毎年大きな問題になる。ユダヤ人が経営するホテルにおけるツリー設置は、カシェル(ユダヤ教の規定に則っているという)認定をめぐる微妙な事柄なため設置されないことが多い。国立大学の構内に学生会が設置したツリーが問題になったこともある。

 クリスマスに対して抱かれるこのような複雑な思いに配慮し、北米などでは「メリー・クリスマス」の代わりに「Season’s Greetings 」が使われるようになったし、その結果、堂々と「メリー・クリスマス」と言えないことに不満を抱く一部のキリスト教徒がいるという報道も目にした。

 だが最近、イスラエルの世俗派ユダヤ人のクリスマスに対する態度は徐々に変化してきたようだ。旧ソ連地域からの多くのロシア系移民が持ち込んだNovy God(ロシア新年)の習慣もその一因だろう。彼らが多く住む地域のショッピングモールには堂々とツリーが飾られ、それはキリスト教ではなくロシア新年の飾りだという説明がなされている。また欧州のクリスマス・マーケットや、イスラエル国内ではハイファのようなアラブ人キリスト教徒が多く住む地区でのクリスマスを「観光」に訪れる人々も増えた。この時期のハイファの名物は、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教のシンボルが共に見られる大きなツリーである。

 そのような気運の中、昨年のクリスマスにイスラエル国防軍の公式ツイッターアカウントが「メリー・クリスマス」メッセージを出したのには驚いた。私が勤務する国立大学では、毎年クリスマスには多言語で記された祝祭メールが配信されていたが、国防軍までとは。「クリスマス」の言葉を使わないようにと配慮され、わざわざ「Season’s Greetings」と言われてきた側が、今や「メリー・クリスマス」と自らメッセージを出すようになったのである。これは不幸な歴史上の出来事からすでにかなりの時間が経過したこと、また現代イスラエルが経済発展を遂げ、クリスマスを異文化として観光する余裕が人々にできたからかもしれない。

 キリスト教徒とユダヤ人の間の不幸な歴史的出来事は決して忘れてはならない。今年はハヌカやクリスマスに関連するさまざまなイベントが中止になってはいるが、イスラエルの地から読者の方々にさまざまな思いと共に「メリー・クリスマス!」

山森みか(テルアビブ大学東アジア学科講師)
 やまもり・みか 大阪府生まれ。国際基督教大学大学院比較文化研究科博士後期課程修了。博士(学術)。著書に『「乳と蜜の流れる地」から――非日常の国イスラエルの日常生活』など。授業がオンラインに切り替わり、画面に流れる学生からのコメント読み取り能力向上が課題。

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