【書評】 『安彦良和の戦争と平和 ガンダム、マンガ、日本』 杉田俊介

 創刊直後の雑誌「Ministry(ミニストリー)」第4号「ハタから見たキリスト教」に登場を願った安彦良和氏は、テレビ放送開始から40周年を迎えた『機動戦士ガンダム』の生みの親の一人。気鋭の批評家による聞き取りをもとに、宗教、歴史、民族、天皇制、社会運動など、多岐にわたる作品群に通底するテーマが浮かび上がる。作品に一貫するのは、「歴史の神話化」に対するアンチテーゼ。それは自らが手がけた『ガンダム』についても同様である。

 とりわけ『イエス』を含め『ジャンヌ』『我が名はネロ』の西洋史シリーズについての批評と対話は、キリスト教関係者にとっても読み応え十分。安彦氏の語りに基づきながらも、あくまで著者による客観的な視点で作品を捉え直す手法が功を奏している。

 「私たちはたとえばマルコやヨハネやルカのそれぞれの福音書の微妙な言葉遣いやエピソードの取捨選択を比較したり、文章の細かい異同を丹念に読み解いていくような、そうした(聖書研究者の資料批判的な)作業を必要としているのかもしれません。田川建三さんの『イエスという男』が2000年後の田川福音書であるように、安彦さんの『イエス』も安彦福音書であると言えるなら、『THE ORIGIN』もまたそうした福音書的な性質を持っていると」

 「安彦氏の『イエス』は、ダメな弱虫こそが救われる、という論理によって心の弱い弟子たちの殉教を特権視する遠藤周作と、イエスに造反有理的な武闘主義を見ようとする田川建三、その二人のイエス像を串刺しに批判しながら、『愚か』な俗人がそのままイエス的=超人間的な行為を行いうる、という可能性に眼を凝らしていく」

 「歴史を生きるとは『わかり合えない他者』に向き合うこと」――そう繰り返す安彦氏の視点から、いま一度キリスト教の歴史を顧みてみたい。

「ガンダム」の生みの親、漫画家・安彦良和氏が教文館で講演 〝「お天道様が見てる」で十分〟 2019年2月21日

【本体920円+税】
【中央公論新社】978-4121506467

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