【書評】 関西学院大学神学部ブックレット15『災害とキリスト教』 関西学院大学神学部 編

 人々はいつの時代も自然災害とどう向き合うかを模索し続けてきた。その姿勢は今も変わらないが、現代世界の一つの特徴は自然災害のみならず、直接的であれ、間接的であれ、人為的災害にも向き合わなくてはならなくなったことだろうか。キリスト教界は災害と人間に対してどのように悩み、また寄り添おうとしてきたのか。

 主題講演「呼び覚まされる霊性の神学――3.11生と死のはざまで」金菱清(同大学社会学部教授)では、「愛する人は本当に逝ってしまったのか、亡くなってしまったのか」という津波による行方不明者への問いから、身体性の喪失を根源的に考察する。社会学の立場から、幽霊、夢、亡き人への手紙などのトピックから死者と生者の交錯を取り上げ、震災と喪失の受容を捉え直した。

 神学講演として、芦名定道氏(同大学神学部教授)による「現代世界における災害の形――環境危機に直面して」、小田部進一氏(同大学神学部教授)による「戦災の記憶と想起――ドイツの教会の事例から考える」の二つを収録。

 芦名氏は、現代社会は「外部リスク」と「内部リスク」の存在するリスク社会であると定義する。その上で災害と人災に対する人間の責任は、神への信頼に基づかなければならないとも述べる。「キリスト教会にとって大切なことは、神への信頼に立って隣人愛を実践することだとまとめられます。隣人愛の実践とは、キリスト教内の信仰のネットワークを教会外の人々とのネットワークへと具体的に広げることから始められなければならないように思います」(本書より抜粋)

 小田部氏はドイツにおける戦災の歴史を「想起と記憶」の文化形成と共に継承していると説明する。ドイツのハンブルク市と警告碑聖ニコライを取り上げながら、戦災の記憶とその変遷の歴史についてを詳しく取り上げ、その歩みは教会が取り組んできた和解と平和を模索するものだと述べた。戦争という取り返しのつかない大災害を起こさないために歴史の警告思いおこす必要を語った。

 現場からは、日下部遺志氏(日本基督教団川内教会牧師)が「災害支援を通して」、森分望氏(日本基督教団三津教会牧師)が「分かち合う共同体を目指して――教会こども食堂・フードバンクの働き」と題してそれぞれ報告。

 日下部氏は自身の教区で起きた熊本・大分地震での教区、教会レベルでの取り組みを報告した。震災支援の経験を通して見えてきたのは、近隣の教会、地区内の教会の交わり、そして教会と地域とに日頃から関わりがあるかないかが、緊急時に重要となること。そして、教区が被災教会に寄り添うことの重要性を語った。

 森分氏は、地域の子どもたちの健やかな成長を見守ること、地域と教会がつながっていくことを目指して始めた子ども食堂とフードバンクの働きを報告した。災害時に教会や教会員のみが、守られていいのかという問いから、社会の中でどう教会はあるべきかを考えた決断としての様々な試みや地域社会のつながりの必要性を述べた。

 「災害とキリスト教」というテーマでは、震災における死への問い、環境危機、戦災、被災地支援、貧困と教会など、広範な事例が語られている。あえて共通点を見出すなら、あらゆる災害に対して人はどう向き合えるのかという問いであろう。その土台として、個人の信仰が、教会が、キリスト教がどのような役割を持つのかを問う1冊である。

【新刊】関西学院大学神学部ブックレット15『災害とキリスト教』関西学院大学神学部編

【1,650円(本体1,500円+税)】
【キリスト新聞社】978-4-87395-817-0

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