横浜市歴史博物館「ご聖体の連祷と黙想の図」 緊急調査報告会を開催 2018年12月8日

 イエスとマリアの生涯を描いた絵画に祈りの言葉を併せた絵巻物「ご聖体の連祷と黙想の図」(320cm×22㎝、澤田美喜記念館収蔵)が、横浜市歴史博物館(横浜市都筑区)で11月23日から、企画展「神奈川の記憶」の展示場内で一般公開されている。  

 同作は12枚のつなぎ合わせた紙に、イエスとマリアの生涯を描いた15枚の絵、仮名文字で書かれた文章に続き、末尾に「ご出世以来千五百九十二年 はうろ(=パウロ)」と花押が記されたもの。長年にわたり澤田美喜記念館に収蔵、保管されてきたが、今年に入り、研究調査を重ねた結果、16世紀末くらいに描かれたキリスト教聖画である可能性が浮上した。誰が描いたものか、どこにあったものか、誰がいつ、澤田記念館に持ち込んだかなどについては現在まで不明。

 11月25日には、横浜市歴史博物館講堂で緊急説明会が開催され、キリシタン研究、言語学研究、歴史研究など各方面の専門家らが、歴史的発見の調査経過を聞こうと来場。一般市民もあわせて約70名が参加した。  

 澤田美喜記念館館長の西田恵子氏は冒頭、この巻物を調査するに至った経緯を説明。「澤田記念館には多くのキリシタン遺物があるが、まだまだ未調査のものが多い。この巻物もその一つだったが、補修にあたって助成金などの申請をするため調べていく過程で、さまざまな人から『巻末にある1592年という年号が本物ならば、歴史的な大発見になる』と言われ、本腰を入れて調査を始めた」  

 一般公開に先立ち、22日に行われた内覧会には、横浜市歴史博物館を運営する公益財団法人横浜市ふるさと歴史財団の理事長、五味文彦氏が来館。中世の歴史を専門とする五味氏は、多くの仏教史料などを精査してきた経験から「この巻物に書かれている文字は、1字たりとも疎かにしていない。この丁寧な文字から彼らの信仰の深さがうかがえる」とコメントとした。巻物の中にある文字は、誰かが聞いたラテン語を仮名文字に起こしたものとみられる。

 同館副館長の井上攻氏は、「一見して江戸時代より以前に書かれたものだと思われる。何人かの専門家にも問い合わせ、共に検証してみたが、おおよそ江戸時代より前のものであるということで見解が一致した」と解説。

 「ご聖体の連祷」は、10年ほど前に大阪で確認されたのに続き2例目。15の場面がある聖画は、大阪で戦前に発見された2点の「マリアの十五玄義図」(京都大学博物館所など所蔵)が知られる。祈りの言葉と絵が一緒になったものが確認されたのは初めて。制作年と考えられる年が記されていたのも初めて。澤田記念館で所蔵している巻物は、文字が鮮明で、状態が良いとされ、さらに研究が進むことが期待されている。

  調査は、科学技術の手を借り、紙がいつ作られたかなどを調べた。同館と共に調査を進めてきた朝日新聞の渡辺延志氏は次のように話す。「紙は、当時、それを使う人々のステータスや権威を表すものだった。上質な紙であればあるほど、身分の高い人々が使い、薄くて貧相な紙は庶民が使うと決まっていたようだ。巻物の使われた紙を見てみると、薄くてあまり良品質とは言えない。おそらく庶民が使ったものではないか」

 科学的に紙の年代を特定するため、渡辺氏は群馬県にある専門機関に依頼し、炭素同位体を使用したAMS年代測定法で検証をした。その結果、この紙は1557年から1632年に伐採された木からできたものとのこと。巻物の末尾に記されていた1592年と一致する。

 この絵図の大きな特徴の一つが、描かれている人物が西洋人ではなく、日本人のような容姿をしているということだ。よく見てみると、イエスの復活を表したと思われる絵には、刀を腰から縦にぶら下げている人物がいる。会場を訪れていた刀剣の専門家によると、馬に乗って戦うのが日常的だった時期の姿で、江戸時代よりも前のものだという。12枚の紙のうち、冒頭の1枚だけは別の紙が使われていることも説明された。この紙だけは明らかに紙質が違い、日本にあった紙とも違う。さらによく見てみると、裏打ちされた紙には、欧文の活字が浮き出ている。「おそらくオランダ語ではないか」と渡辺氏。赤外線に通して活字を浮き上がらせたものも、この日、初公開された。書かれている文字の意味については、今後、調査していくという。

 会場を訪れたキリシタン史研究者の大橋幸泰氏(早稲田大学教授)は、「ここ数年、偶然にもキリシタンに関する発見が続いている。キリシタン屋敷の跡から発見されたシドッチ神父の遺骨に匹敵する発見と言える。日本人の手にあったとしたら、弾圧期に幕府に取り上げられ、破棄されていたに違いない。どこか人目に触れない所にあって、それが奇跡的に今、我々の目の前にあるということ」と興奮気味に語った。  

 横浜市歴史博物館企画展「神奈川の記憶展」は、2019年1月14日まで。詳しくは HP(https://bit.ly/2zEwVmv)まで。  

赤外線で活字を浮き上がらせた部分も初公開

横浜市歴史博物館提供

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