戦後75年 戦争の惨禍 語り継ぐ責任 イラストレーター みなみななみさん 2020年8月11日

 コロナ禍と豪雨災害という未曾有の混乱の中で迎えた戦後75年目の夏。今年は、自身の戦争体験に基づき、長くキリスト者として平和の問題と向き合い続けてきた渡辺信夫さん(日本キリスト教会牧師、カルヴァン研究社)が3月に、西川重則さん(日本キリスト改革派東京教会員、平和遺族会全国連絡会)が7月に相次いで亡くなった。

 2000年代初頭に西川さんを取材し、共著『これから戦争なんてないよね?――自由がふつうじゃなくなる日』(いのちのことば社)に結実させたイラストレーターのみなみななみさんは、その後『マンガで読む日本キリスト教史 タイムっち』(キリスト新聞社)、『ヒロシマの少年じろうちゃん』(星雲社)などの書籍に携わり、2017年には実父の証言を『父の東京大空襲』として自ら冊子にまとめた。戦争を体験した当事者が少なくなる一方、世界を取り巻く情勢は緊迫感を増すばかり。敗戦記念日を前に、継承の課題についてみなみななみさんに話を聞いた。

【既刊】『マンガで読む日本キリスト教史 タイムっち -なぜ天皇が神サマになったのか』 岡田明(みなみななみ 画)

〝人が人として大切にし合える社会を〟
「知れば変わる」差別的だった父の変容

 「やく300機の飛行機が 30万発のばくだんを落とし この日10万人が死んだ 火は明け方まで燃えて 東京のまちをやけつくした」(『父の東京大空襲』より)

 1945年3月10日の東京大空襲で父を亡くし、母と共に命からがら生き延びたみなみななみさんの父は、生前「戦争は嫌だ。二度としてほしくない」と繰り返し話していた。当時の体験は何度も聞かされていたはずだったが、遠い昔話のようで実感はわかなかった。家族や友人だけでなく、住む家や生まれ育った故郷を失った父の苦労や悲しみに共感できたのは、父の死後、残された証言集などから改めて漫画にしようと向き直ってからのことだった。

 「今思えば、たくさんトラウマも抱えていただろうし、もう少し理解してあげられたら良かったなと。でも、おかげで戦争がよくないものという考えは幼いころから身についていました」

 ななみさんが雑誌連載の取材で西川さんと出会ったのは、日米防衛協力のための指針(新ガイドライン)関連法が策定されたころ。国会の傍聴を日課としていた西川さんの話は、とにかく難解でとうてい理解が及ばなかったが、「戦争放棄を謳った憲法を変えようとする動きがある」「戦争できる国づくりが進行している」ことなど考えてもみなかったので、ただただ驚きの連続だった。

 あれから20年。もはや、熱心に国会を傍聴しなくても「総理大臣が憲法を変えようとしている」ことは周知の事実。西川さんも生前、第二次安倍内閣が発足した2012年と『これから戦争なんてないよね?』の刊行時とでは、「状況が一変している」と書き残していた。

 特に戦争と平和の問題に向き合うつもりはなかったななみさんだが、結果的に「仕事のため」原爆や水爆実験、天皇制、政治の問題についても勉強することになり、久々に読み返した自著も以前よりスムーズに読破できるまでになった。

 父が戦争の遺族でもあり、空襲の当事者でもあったので、民間人が悲惨な目にあう戦争はやめてほしいという基本的な立場に変わりはない。一方で、「具体的な話になると声を大にして何かを訴えるというような筋の通ったものがあるわけではなく、実際のところはどうしたらいいのかよく分からない」との葛藤も打ち明ける。

『父の東京大空襲』より

 それを乗り越える鍵は、自身の体験にあった。軍国教育を鵜呑みにして育った父は、戦後も「日本人は中国人や韓国人よりも優れた民族」といった差別的な感覚から逃れられずにいた。しかし、ななみさんが香港やアフリカに渡った際、親切にされた体験を話すと途端に態度が変わった。実際に他者と出会い、知らなかったことを知るだけで、人は変わることができるという事実を目の当たりにした。多文化共生を題材に、学校現場を取材して描いた漫画『クラスメイトは外国人』シリーズ(明石書店)では、「クラスに『外国人』がいることによって日本の生徒たちが変わっていく」という教員たちの実体験も耳にした。

 昨年は、ある教会付属の幼稚園から平和についての講演を依頼された。『ヒロシマの少年じろうちゃん』の推薦文を書いたコカリナ奏者、黒坂黒太郎さんからの紹介だった。絵を描くのは好きだが、人前で話すのは大の苦手。戦争を実体験したわけでもない。本心では断りたいが――「それでも呼ばれるということは、話す責任があるんだろうなと。自分が聞いた範囲でしか話せないけれど、知っている人が知っている範囲で表現し続けていくことに意味があると思いました。国会前でデモをしたり、声を上げたりはできないけれども、作品を通して他者を理解する助けになればありがたい。おそらく、こういう仕事をしていいよと神様が言ってくれているんだと勝手に解釈して、『できません。でも助けてください』と祈りながら引き受けました」

 ビキニ環礁での水素爆弾実験により被ばくしたマグロ漁船が主人公の『ぼくのみたもの――第五福竜丸のおはなし』(いのちのことば社)では、話を聞いたそばから急に画面が思い浮かび、描きなさいと言われている気がしたという。

 特に意識していたわけではないが、生み出してきたのはいずれも、人が人として互いに差別したり殺し合ったりせず、大切にし合える社会を願う作品ばかり。

 中学時代にラジオで聞いた話が未だに忘れられない。「東京大空襲・戦災資料センター」の館長も務めた作家の早乙女勝元さんが、幼いころ「どうして戦争を止めてくれなかったの?」と親に聞いて返ってきた答え――「知らないうちに戦争が始まってしまった」。コロナ禍を経て、「民意は反映されない」ことを改めて痛感したというななみさん。「このままじゃまずいとは思いながら、どうしたらいいか分からないことだらけ。でも、またいつ『知らないうちに』となりかねないので、無関心にだけはならないようにと肝に銘じています」

 さらに、「これからは、単に日本が戦争で辛い経験をしたという『被害者』の視点だけではいけないなと思っています」とも。生前の西川さんの言葉が重く響く。「私たちは、事柄の真実を知る努力をしなければなりません。何よりも大切なことは、為政者による戦争を是認する発言の背景にあるものを見抜くことです」(本紙・松谷信司)

*『父の東京大空襲』の注文はみなみななみ商店(https://bit.ly/2Dj08bt)まで。

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