旧・統一協会 40年以上変わらぬ実態 安倍元首相銃撃で波紋広がる 「カルト2世」の苦しみ知って 2022年7月21日

 参院選の最終盤に起こった安倍晋三元首相の銃撃事件が、思わぬ方向に波紋を広げている。7月8日、奈良市内で街頭演説中の安倍元首相を狙った凶弾は、多額の献金で母親を自己破産に追い込んだ「世界平和統一家庭連合(旧・統一協会)」に恨みを持つという山上徹也容疑者によるものだった。

 これまでの供述によると、2019年10月に来日した家庭連合の総裁、韓鶴子(ハン・ハクジャ)氏を狙い愛知県まで足を運んだものの、信者以外は会場に入れなかったため断念。2021年9月に、関連団体である「天宙平和連合(UPF)」のイベントに、安倍元首相がドナルド・トランプ前米大統領とともにビデオメッセージを送っていたことから、「総裁を日本に連れてきた岸信介元総理の孫」である安倍元首相を殺害しようと犯行に及んだという。

 これを受けて7月11日に記者会見を開いた家庭連合の田中富広会長は、山上容疑者が同連合とは無関係、母親は1998年ごろからの信者で、2002年ごろに経済的に破綻していたことを把握はしていたものの献金を強制したことはない、コンプライアンスを徹底した2009年以降はトラブルもないと弁明。安倍元首相との関係についても、「友好団体が主催する行事にメッセージを送られたことはあるが、家庭連合との関係はない」と説明した。

 しかし、被害者救済に取り組んできた全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連、代表世話人・山口広ほか4名、川井康雄事務局長)も12日に会見を開き、「あまりにも事実に反する。霊感商法による被害も続いており、社会問題化してから40年以上、実態は何も変わっていない」と反論した。

〝お墨付き〟与える政治家との癒着を危惧

 全国弁連は同日発表した声明で、「今般の卑劣極まりない行為は、いかなる理由があろうとも決して許されない」と強調した上で、山上容疑者をはじめとする被害者家族の「苦悩や教会(ママ)に対する憤り」にも一定の理解を示し、「家庭を崩壊させる統一協会の活動について行政も政権を担う党の政治家もこの30年以上何も手を打って」こなかった、「献金勧誘行為や信者獲得手法について繰り返し違法である旨の判決が下されている統一協会やそのダミー組織の活動について支持するような(政治家の)行動は厳に慎んで頂きたい」と釘を刺した。

 2012年末の第二次安倍内閣発足以降、統一協会系の月刊誌「世界思想」の表紙には安倍元首相がたびたび登場。文化庁によって拒まれてきた「世界基督教統一神霊協会」からの名称変更が認可された2015年、当時の文科相だった下村博文氏が「最終決裁は文化部長であり、通常通りの手続き」と釈明に追われるなど、その関係の深さをうかがわせる傍証は複数存在する。

 全国弁連は2021年、安倍元首相が韓総裁を含む統一協会の幹部・関係者に対し、「敬意を表します」とのメッセージを送った直後にも、「反社会的な団体に『お墨付き』を与えることになる」「今後日本社会に深刻な悪影響をもたらす」と憂慮する抗議文を送っていたが、安倍元首相の事務所からは「受け取り拒否」で返送されてきたという。

 韓国のキリスト教事情に詳しい「異端・カルト110番」の根田祥一氏は、「問題が表面化すると『友好団体がしたことで教会(統一協会本体)』は感知していないという論法は、霊感商法を追及された際に決まって持ち出されてきた統一協会の常套句」だと指摘する。「統一協会は、勝共連合、株式会社ハッピーワールド、UPFなど多くの関連団体を設立してきたが、それらはすべて統一協会(家庭連合)の信者が運営しており、上からの『人事』によって配属されていることが、脱会者の証言や証拠により明らかになっている」

 日本基督教団カルト問題連絡会世話人の齋藤篤氏(同仙台宮城野教会牧師)は、1960年代、保守系政治家が反共産主義推進のために協力を求めた勝共連合(名誉会長は笹川良一氏)に注目する。その代表的な政治家が岸信介元首相=写真右上、統一教会本部で文鮮明氏と握手を交わす(1973年11月)=であり、その関係は娘婿の安倍晋太郎氏、子息の安倍晋三氏へと引き継がれた。韓国の放送局CBSは、勝共連合の機関紙「思想新聞」が1986年の記事で、「衆参両院議員選挙で130人の勝共推進議員が当選した」と主張したことを報じている。

 12日の会見でも弁護士の渡辺博氏が、「少なくとも100人以上の統一協会信者が自民党国会議員の秘書として活動していた」と証言。近年は、改憲や原発推進、家族観などで軌を一にする保守系の政治家と互いに利用し合う関係が築かれてきたと見られる。「国会議員から地方議員や首長に至るまで、政権に近い政治家らが統一協会と癒着してきたことの責任は大きい」と根田氏。

全国弁連の会見(7月12日)で、岸元首相と握手する文鮮明氏の写真が掲載された写真集を手に解説する山口広弁護士(右)

昨年だけで被害額3億超

 会見には、母親の入信を機に自らも信者になった「信仰2世」の40代女性も同席し、2度の合同結婚式で相手の韓国人男性から暴力を受け、お金を使い込まれて自己破産するなど、過酷な境遇を打ち明けた。2013年に脱会を果たして帰国したものの、相談できる窓口は「いのちの電話」しかなかったという。「容疑者のしたことは何一つ擁護できないが、統一協会によって破綻させられた身としては、2世の苦しみや、協会を恨む気持ちは理解できる」と苦しい胸の内を明かした。

 前日の田中会長による説明については、「嘘ばかり言っている。献金にしても信者が自らささげている、強要はしていないという言葉を聞いて血圧が上がる思い。『地獄に行く』『天国に行けない』という脅し文句で献金をさせているのが事実」と全否定した。母と縁を切るため離散した3姉妹は、今も身を隠しながら生活する。昨年末までの約35年で、元信者から寄せられた被害相談は3万4537件、被害総額は約1237億円で、昨年だけでも47件、総額3億3153万円にも上る。

 齋藤氏は、「カルト信者には『加害者性』と『被害者性』の二面が表裏一体としてつきまとう。この二面性が家庭崩壊を生み、今回の事件を引き起こした」と分析する。

 キリスト教界では、統一協会による被害が表面化して以来、東北学院大学教授(当時)の浅見定雄氏をはじめ、有志の牧師たちが救出活動に携わってきた。日本基督教団では、教区事務所などで相談を受け付けているほか、カルト問題連絡会発行の冊子『カルトって知ってますか?』(定価100円、送料84円)=写真下=も頒布。購入希望者は somu-b@uccj.org まで。学校、大学などで学生への配布を希望の場合はFAX(03-3207-3918)での注文も受け付けている。


全国霊感商法対策弁護士連絡会による声明(2022年7月12日)

1 山上被疑者が、安倍晋三元首相を死に至らしめた今般の卑劣極まりない行為は、いかなる理由があろうとも決して許されないことです。当会は、安倍元首相のご冥福を心からお祈り申し上げます。

2 山上被疑者の母親が統一協会に多額の献金をし家庭を崩壊させられたことへの恨みが今回の事件の動機であるという報道が事実だとすれば、同被疑者が母親の常軌を逸する統一協会への献金をはじめとした忠実すぎる活動のためどんなに苦しんできたことか。多くの元信者やその家族、二世信者の苦悩や葛藤、生活の困窮などの悩みに接してきた当会としては、かねてよりこのような実情について心から憂いてきたことであり、その意味で、山上被疑者の苦悩や教会に対する憤りも理解できます。家庭を崩壊させる統一協会の活動について行政も政権を担う党の政治家もこの30年以上何も手を打ってきませんでした。今回の行為は決して許されることではありませんが、こうした問題に対し社会としてどう取り組むべきかが改めて問われているとも思います。

3 安倍元首相が、統一協会やそのダミー組織のひとつである天宙平和連合(UPF)などのイベントにメッセージを発信することを繰り返し、特に昨年9月12日の「神統一韓国のためのTHINK TANK2022希望前進大会」(UPFのWEB集会)でビデオメッセージを主催者に送り、その中で文鮮明(ムン・ソンミョン)教祖(2012年死去)の後継の教祖韓鶴子氏に「敬意を表します」と述べたことは、統一協会のために人生や家庭を崩壊あるいは崩壊の危機に追い込まれた人々にとってたいへんな衝撃でしたし、当会としても厳重な抗議をしてきたところです。
 政治家の皆様が政治的信念にもとづいて意見を述べ行動されることについて当会として異をはさむものではありません。
 しかし、その献金勧誘行為や信者獲得手法について繰り返し違法である旨の判決が下されている統一協会やそのダミー組織の活動について支持するような行動は厳に慎んで頂きたいと改めて切実にお願いいたします。

4 統一協会の霊感商法の手口による金銭収奪行為や正体を隠してビデオセンターに誘い込んで信者にしていく行為が、信者となった者やその家族の人生を狂わしあるいは狂わしかねないものであることについて、少しでも理解して下さるよう願います。

5 また、今回の事件や報道、SNS等の投稿によって、傷つき、苦しむ統一協会の現役信者、特に二世信者、三世信者が存在することを念頭に置き、取材、報道、投稿は慎重にされることを望みます。


【参考】2021年9月17日に安倍晋三氏宛に送られた公開抗議文より抜粋

1 私たち、全国霊感商法対策弁護士連絡会は、世界平和統一家庭連合(略称「家庭連合」、旧世界基督教統一神霊協会、以下「統一教会」といいます。)による霊感商法被害の救済と根絶のために、1987年5月、全国の弁護士約300名により結成された弁護士の連絡会です。

2 昨今、国会議員や地方議員の方々が統一教会やそのフロント組織の集会・式典などに出席し祝辞を述べ、祝電を打つという行為が目立っています。これらの議員の方々の行為は、統一教会により、自分達の活動が社会的に承認されており、問題のない団体であるという「お墨付き」として利用されます。

3 家庭連合は、統一教会と名乗っていた頃から、信者の人権を抑圧し、霊感商法による金銭的搾取と家庭の破壊等の深刻な被害をもたらしてきた反社会的な団体であり、家庭連合に名前を変えてからもその体質は変わっていません。かつての霊感商法、合同結婚式に関する多くの批判的報道から時間が経過したことで統一教会の実態を知る国民が減っている中で、政治家によるお墨付きは、統一教会による反社会的な活動を容易にし、また、その反社会的活動の是正を困難にするものとして悪用されます。これは、政治家にとって、決して本意ではない筈です。

4 ところが、本年9月12日、韓国の統一教会施設から全世界に配信された統一教会のフロント組織である天宙平和連合(UPF)主催の「神統一韓国のためのTHINK TANK2022希望前進大会」と称するWEB集会において、安倍晋三前内閣総理大臣の基調演説が発信される事態が生じました。これを統一教会が広く宣伝に使うことは必至です。上記要望書の要望を全く無視したものというほかなく、当連絡会としては深く失望し、今後の被害の拡大に強く憂慮しております。
 安倍先生が、日本国内で多くの市民に深刻な被害をもたらし、家庭崩壊、人生破壊を生じさせてきた統一教会の現教祖である韓鶴子総裁(文鮮明前教祖の未亡人)を始めとしてUPFつまり統一教会の幹部・関係者に対し、「敬意を表します」と述べたことが、今後日本社会に深刻な悪影響をもたらすことを是非ご認識いただきたいと存じます。

5 安倍先生が今後も政治家として活動される上で、統一教会やそのフロント組織と連携し、このようなイベントに協力、賛助することは決して得策ではありません。是非とも今回のような行動を繰り返されることのないよう、安倍先生の名誉のためにも慎重にお考えいただきますよう強く申し入れます。また、事の重大性に鑑み、公開抗議文として送付するとともに抗議文を公開させていただく次第です。
 あわせて、今回のUPFのWEB集会の基調演説のビデオメッセージを提供された経緯について明確なご説明をいただきますようお願いします。

カルト被害に備えるために 統一協会の「今」~その知られざる実態 鈴木エイト(『やや日刊カルト新聞』主筆) 2018年4月1日

「宗教2世ホットライン」開設 〝生きづらさ抱える2世の居場所に〟 2020年5月12日

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