【宗教リテラシー向上委員会】 統一協会の何が問題なのか(1) 川島堅二 2022年8月1日  

 安倍元首相銃撃事件を機に、統一協会(現・世界平和統一家庭連合)が改めて注目を集めている。統一協会はエホバの証人やモルモン教と同様にキリスト教系の新宗教で、その教義は、伝統的なキリスト教とはいろいろな点で異なっている。この団体に特徴的な教義を、この団体が社会問題化する要因との関連で考えてみたい。

 まず聖書について、主流派のキリスト教では不変の正典であり「信仰と生活との誤りなき規範」(日本基督教団信仰告白)とされる。しかし、統一協会では「聖書は真理それ自体ではなく、真理を教示してくれる一つの教科書」とされ、したがって「不動のものとして絶対視してはならない」と教えられる。正典の規範性はきわめて脆弱であり、これが伝統的なキリスト教では考えられないような教えや実践を許容する根本的な原因となる。

 例えば啓示についての考え方である。伝統的キリスト教では、啓示はイエス・キリストと聖書に限定されているのに対し、統一協会では、それとは別に、霊界(神霊)との直接的コミュニケーション(霊交)が許容される。伝統的キリスト教では、イエスの十字架は救いの中心的出来事だが、統一協会はこれを否定し、「霊交によって、イエスに直接聞いてみれば、一層明白にこの事実を知ることができる」という。

 また「神の二性性相と被造世界」という教えでは、聖書にはない二元論的な世界観が提示される。「存在するものはすべて、その外形と内性を備えている。そして、その見えるところの外形は、見ることのできない内性が、そのごとくに現れたものである。(中略)心があるかたちをもっているので、その心に似ている体も、あるかたちを持つようになるのである。観相や手相など、外貌から、見えないその心や運命を判断することができるという根拠もここにある」という。勧誘(伝道)において手相や顔相鑑定といった伝統的キリスト教では考えられない方法がとられる理由がここにある。

 キリスト教で最も重要視される儀式をサクラメント(聖礼典)といい、伝統的なキリスト教すなわちカトリック教会は七つ(洗礼、堅信、聖餐、ゆるし、病者の塗油、叙階、結婚)、プロテスタント教会は二つ(洗礼と聖餐)をサクラメントとしている。これに対し統一協会では「聖酒式」としての「結婚」に特化している。

 結婚は統一協会の信者同士でしか認められないのみならず、相手を自由に選ぶこと(自由恋愛)はできない。かつては教祖が写真を見てマッチング、現在は幹部信者や、二世信者の場合は信者である親同士が決める。式は集団結婚式として行われ、独身信者の信仰生活の目標となる。

 統一協会信者である母親の多額の献金により生活破綻をきたしたことが、元首相銃撃という凶行の原因となった。こうした常軌を逸した献金の根拠となる教えが「復帰原理」である。堕落した人間がサタンの支配を離れ、神に近づいていく歴史が「復帰の歴史」といわれ、その際「堕落した人間が、神に向き合うためには常に献げものが必要」と教えられる。神に「復帰させる」という事実が重要であり、そのためなら「うそ」や「詐欺」も許される。いわゆる霊感商法である。

 統一協会は発祥地である韓国はもとより、アメリカやヨーロッパでも活動しているが、しかし霊感商法の被害は日本でのみ発生している。そこには、歴史的経緯により日本は「サタンの側の国家である」という統一協会独自の歴史神学と「復帰原理」の教えが密接に関係している。(つづく)

川島堅二(東北学院大学教授)
 かわしま・けんじ 1958年東京生まれ。東京神学大学、東京大学大学院、ドイツ・キール大学で神学、宗教学を学ぶ。博士(文学)、日本基督教団正教師。10年間の牧会生活を経て、恵泉女学園大学教授・学長・法人理事、農村伝道神学校教師などを歴任。

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