【検証 〝協会〟の実相と教会の課題】 先人による「原理運動」への警鐘 弁護士 河田英正さん 2022年9月21日

「青春を返せ裁判」で宗教行為にも違法判断
反省、謝罪、関係断絶宣言が必要

 1970年代に統一協会(現・世界平和統一家庭連合)が大学生獲得のために「全国大学原理研究会」(いわゆる原理研)を組織し、原理研に入った学生が統一協会の活動に埋没して、大学から姿を消し、両親とも連絡がつかなくなる事案が多発していた。一方、街頭では青年意識調査などのアンケートや運勢鑑定などをきっかけとして、統一協会の正体を隠した勧誘が行われ、壺や多宝塔などを法外な金額で売る霊感商法が拡大し、社会問題化しつつあった。この霊感商法は統一協会が組織的に行っていることが明らかとなり、全国各地の弁護士もこれらの被害相談、救済に乗り出した。1987年5月、今も活動を継続している全国霊感商法対策弁連が被害救済に取り組む弁護士らの情報交換の場として結成された。

 統一協会は略称であり、正式名は「世界基督教統一神霊協会」であった。統一協会は「統一教会」と表記していたが、私たちは正式名から「統一協会」と表記することにしていた。この統一協会の正体を正確にそして核心的本質を明らかにした書籍が1987年3月に発刊された。統一協会問題を扱うことになる関係者にとっては、まさに「バイブル」となった。旧約聖書学の第一人者であった東北学院大学教授(当時)浅見定雄氏による日本キリスト教団出版局発行『統一協会=原理運動――その見極めかたと対策』である。初版発行からわずか2週間ほどで再版発行となるなど、統一協会問題を扱う人々にとっては必携の書となった。

 この本の扉には、「はじめに」と題して「すべて良い木は良い実を結び、悪い木は悪い実を結ぶ。良い木が悪い実を結ぶことはなく、また、悪い木が良い実を結ぶこともできない。良い実を結ばない木はみな、切り倒されて火に投げ込まれる」(マタイによる福音書7章17~19節=新共同訳)を引用し、統一教会はその被害の実態から日本列島から消えていくべき存在であると述べられていた。

 壺や多宝塔を先祖の因縁を説きながら販売する霊感商法は、広告塔となった芸能人などの合同結婚などとともにその問題性が大きく報道され、いったんは表向き収まっていくかのように見られた。しかし、販売する商品を着物、絵画、アクセサリー、医薬品などに拡大しながら(定着経済と呼ばれた)、霊感商法は続けられていた。

河田さんが関わった「青春を返せ」裁判の高裁判決を報じる山陽新聞(2000年9月15日付)

 さらに、従来の霊感商法を続けながら、信者から献金という形で金銭の収奪を図ることにシフトされてきた。統一協会には「万物復帰原理」という教義があり。万物はすべて神のものであり、中でも万物の大切なものはお金であって、これを神に返さなければならない、すべての財産を教祖に捧げなければならないと教化されていた。信者は、献金の理由とする「摂理」に基づいて次々と献金を強いられていた。「日韓トンネル」もこうした献金を求める摂理の一環として、献金強要の道具とされてきていた。最近は信者が直接、韓国にお金を持参して献金する「先祖解怨」献金が多く行われてきている。山上徹也容疑者の家庭のように統一協会の信者が家族にいれば、その家庭の財産は統一協会に吸い上げられ、経済的に破綻し、家族関係が破綻していくことは珍しくないことであった。

 統一協会の霊感商法が違法であることは、司法の場でも多くの裁判によって確定された。その裁判を背景に示談交渉による解決もなされてきていた。弁連の集計による霊感商法の被害相談は1987年から2021年までに、相談件数1万8495件、被害金額の総計は935億2279万4998円となっている。私個人でも100件以上は対応してきて、取り戻した金額は数億円に上ると思われる。

 霊感商法の被害回復のために統一協会側と交渉をしてきているうちに、霊感商法の最前線で霊感商法を担っている信者も被害者であることに気づかされた。統一協会の中で氏族のメシアとして、万物を神に返すという目的のために霊感商法を善なることとして遂行し、借金をしてまで、あるいは家族を裏切ってまで献金をし続けている信者たちであった。当時、悪名を馳せていた統一協会であることを知らされないまま、情報を管理され教化される中で、すでに拒否できない精神状況のなかでメシア文鮮明を明かされ、ついには信者となってしまい、献金に邁進するようになるのである。このように正体を隠して勧誘し、教化されて、ついには霊感商法に手を貸すようになったことに対して元信者が慰謝料の請求を求めた裁判がいわゆる「青春を返せ裁判」であった。

 2000年9月14日、広島高等裁判所岡山支部は、浅見定雄証人を採用し、「有機的に連携してなした一連の行為が宗教行為と評価しうるとしても、その目的、方法、結果が社会的に認められる範囲を逸脱しており、教義の実践の名の下に他人の法益を侵害するものであって、違法なものというべく……」として、元信者に慰謝料の支払いを命じ、この判断は最高裁でも維持された。宗教団体としての勧誘、教化などの一連の宗教行為が、宗教選択の自由を奪うなどの人権侵害があるとした初めての司法の判断であった。統一協会が違法な反社会的団体であることを断罪したのである。

 「親泣かせの原理」などと言われたころから、親たちの相談にキリスト教の牧師らが相談に関わってきていた。統一協会がキリスト教一派を名乗っていたため、聖書とは異なる教えなどを指摘しながらカウセリング、脱会相談などに応じることが効果的であったからだ。日本基督教団においてはカルト問題連絡会を組織し、関わる牧師らと問題を共有しながら信者の家族、元信者らの相談に応じていた。しかし、カルト的体質が顕著になってきて、僧職にある宗教者、心理学者、宗教学者、ジャーナリストらも加わり、被害の救済、防止策等に関して連携を深めていった。こうした活動は、カルト被害救済・防止の大きな力となった。親身になって被害相談を受けて解決の道筋を見出してきていた「全国統一協会(教会)被害者家族の会」の果たしてきた役割も特筆すべきである。大学においてもキャンパスでのカルト勧誘にストップをかけるなど対策が見られるようになったのは歓迎すべき動きである。

 今回の安倍晋三元首相銃撃事件で、政治家と統一協会との密接なつながりがあぶり出されてきている。究極の正体隠しに関与したと思われる統一協会の名称変更にも政治家が関わっていたことが明白になろうとしている。関連団体に祝電を打っただけだという国会議員もその行為がどのように影響を与えたかに思いを致し、反省と謝罪そして統一協会との関係断絶宣言が必要である。地方議会においても統一協会の推進する条例を全国的に作っていくなどの活動が見られ、日本の政治の奥深くまで影響をもたらしている事実は驚愕するばかりである。当面、被害者、その家族らからの相談体制を適切に組めるか否かが最重要課題である。そして、宗教団体の解散命令、カルト規制のあり方、宗教行為の自己規制などこれから取り組まれなければならない重要な検討課題が残されている。

(かわだ・ひでまさ)

【検証 〝協会〟の実相と教会の課題】 カルト教団に命奪われた父 日本聖公会管区事務所宣教主事・司祭 卓 志雄さん 2022年9月11日

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