ウクライナの教会や宗教施設500カ所がロシア軍侵攻の被害と報告書 2023年2月21日

 宗教自由研究所が集計した破壊や略奪された建物の三つに一つは「福音派」に属するが、それは「アメリカのスパイ」と告発されてのことだった。「クリスチャニティ・トゥデイ」が報じた。

 キエフ(キーウ)に拠点を置く宗教自由研究所(IRF)によると、ロシア軍は約1年前に隣国に侵攻して以来、福音派のキリスト教徒を「不当に攻撃」し、ウクライナの少なくとも494の宗教施設、神学施設、聖地を「破壊、損傷、略奪」してきた。この独立研究機関は今週、ワシントンで開催された第3回国際宗教自由サミットにおいて、最新の報告書を発表した。

 IRFは、ウクライナの宗教団体に対するロシアの戦争犯罪の証拠を目録化することを目的としている。宗教施設の破壊はしばしば意図的であり、民間人の信徒や牧師に対する攻撃と同時に起こっていると、事務局長のマクシム・ベイシン氏は述べた。

 ロシア兵は、ウクライナの福音主義キリスト教徒を「アメリカのスパイ」「偏狭宗派」「ロシア正教会の敵」と呼び、破壊すると繰り返し脅迫してきたと、ケルソンにあるタブリスキ・キリスト教学院-福音主義団体に属する多数の被害地のうちの一つ―の院長、バレンチン・シニー氏は語った。

 ロシア軍は神学校の建物を本部として押収し、略奪した後、破壊したまま放置したという。IRFの報告によると「あるロシア人将校は、私たちの研究所の職員にこう言った。『お前のような福音主義者は完全に撲滅されるべきだ。一発の銃撃では簡単すぎる。お前は生き埋めにされる必要がある』」とシニイ氏は語っている。討論会で流された翻訳ビデオでは、「電話での会話で、従業員の一人が『お前のような(バプテスト)派の人間を埋めてやる』と言われた」と詳しく説明した。

 IRFの報告書は、「福音主義教会の祈りの家の破壊の規模は計り知れない」とした。その中には75のペンテコステ教会、49のバプテスト教会、24のセブンスデーアドベンチスト教会、22の「その他」の福音主義教会が含まれており、福音主義者はウクライナの人口の5%未満であるにもかかわらず、全体の3分の1に相当する少なくとも170カ所の被害があったことが判明した。

 約80%を占める正教徒のなかで、少なくとも143の破壊された建物が長い間ロシア正教会(ROC)のモスクワ総主教庁に属していたウクライナ正教会(UOC)に属し、34は新しく小さく独立した正教会ウクライナ(OCU)に属している(UOC独自の集計では、砲撃による被害は300教会、うち75教会が「破壊」されている)。

 IRFはまた、エホバの証人94、カトリック29、ユダヤ教12、イスラム教8、モルモン教4の宗教施設で被害を受けたと集計している。同研究所では、敵対行為が続くウクライナ東部・南部で、破壊のペースはすぐに上がると予想している。

 IRFの報告書には、宗教施設に対する砲撃、ミサイル攻撃、破壊行為、略奪、宗教指導者や多くの信者に対する拷問や殺害が記録されている。多くのケースで、破壊された教会の信者は、ロシア軍がウクライナ語の聖書、書籍、トラクトをすべて焼却したと見られる。

 ヴァシン氏は講演の中で、ロシア当局はしばしば聖職者や一般信者がウクライナ語を話す、ウクライナ人であることを示す、あるいはモスクワ総主教庁と異なる宗派に属していることを理由に標的にしていると述べた。彼は、研究所が収集した証拠が、国際刑事裁判所などの国際機関が、ロシア当局を宗教施設攻撃という戦争犯罪だけでなく、人道に対する罪や大量虐殺の罪でも調査し、告発するよう促すことを期待している。

 ヴァシン氏は、「ウクライナで行われたロシアの戦争犯罪は、全体として、ウクライナ人の滅亡を目的とした特別な大量虐殺の意図の存在を示している可能性があり、これは国際人道法上の明確な犯罪である」と述べた。

 IRFの報告書は、ブチャ、イルピン、マリウポリ、ハリコフでの大量破壊の例は、ロシアがウクライナ人の自決権や主権を受け入れるよりも、都市全体を消滅させ、ウクライナの歴史的・精神的遺産を破壊することを望んでいることを示していると結論づけている。報告書は、米国や他の国々が、ウクライナで行われた戦争犯罪を独自に調査する国際機関を設立し、人権と信教の自由を監視するために、クリミアを含めウクライナのロシア占領地へのアクセスを要求することを勧告している。

 2022年3月からロシアに占領されている南東部ザポリジャー州のメリトポリにあるワード・オブ・ライフ教会のドミトリー・ボデュー牧師は、サミット出席者のために、ロシアの捕虜生活をいかに生き延びたかを語った。彼は、ロシア軍が彼の教会の建物を押収し、彼を投獄し、お前は殺されるだろうと告げたと述べた。IRFの報告書によると、ボデュー氏は刑務所から脱出したが、地元の福音主義者たちは依然として命の脅威にさらされている。さらに、ウクライナのギリシャ系カトリック司祭2人がメリトポリで3カ月間投獄され、日常的に拷問を受けているという。

 IRFの報告書によると、ロシア軍はウクライナ人牧師を拉致し、ロシアのスパイや宣伝員として参加させようとしたこともあるという。2022年2月24日から7月15日まで、同研究所はウクライナの宗教指導者の不法監禁を20件記録し、レイプ未遂、嘲弄処刑、水・食料・トイレへのアクセスの剥奪、家族への暴力の脅しなどが伴っている。

 昨年末、ウクライナはクリミアとロシアの重要な接点であるメリトポリを奪還するための取り組みを強化した。ウクライナ南部からロシア軍を追い出す試みは、戦争の次の大きな局面となることが予想され、戦前の人口15万人の南東部の都市の奪還に大きくかかっている。

 ウクライナに焦点を当てたサミットのサイドイベントでは、ヴァシン氏、シニイ氏、バプテスト連盟のイゴール・バンドゥラ第一副会長、OCU大司祭でキエフ正教神学校講師のアンドリー・ドゥドチェンコ氏らがパネリストとして、ウクライナへの軍事支援の継続を促した。ロシアがウクライナの領土を支配しているところではどこでも、すべての宗教組織がモスクワに忠実な対抗勢力の支配下に置かれるか、解散または破壊されると、パネリストは述べている。

 ウクライナ政府は、モスクワ総主教庁に所属する正教会がロシアの侵略を支持し、ロシア政府と協力していることから、その活動を制限しようと動いていると、Law & Liberty Internationalの代表でパネルの司会を務めたローレン・ホーマー氏は述べた。

 12月、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「ロシア連邦の影響力の中心地に所属する宗教団体がウクライナで活動できないようにする」ことを国会議員に呼びかける法律案を支持した。もし可決されれば、この法律はUOCの活動を停止させる可能性がある。

 UOCは5月、モスクワ総主教庁から距離を置くための措置を取り、礼拝でモスクワ産の聖別オイルに代わってウクライナ産の聖なるミルラを使うよう呼びかけるなどしていた。しかし今週、ウクライナ当局は、UOCは(OCUのように自己浄化を追求できなかったため)制裁を回避できるほど自律的ではないと結論づけた。

 ゼレンスキー氏の法律案は、ロシアとウクライナ双方が精神的遺産として主張している「洞窟の修道院」として知られるユネスコの遺跡11世紀建立のキエフ・ペチェルスク大修道院を含む350のUOCの建物に対する、ウクライナ治安当局の手入れに続いて出されたものである。

 ロシアの安全保障理事会副議長でプーチン大統領顧問のドミトリー・メドベージェフは、ゼレンスキーの提案に反発し、テレグラム(インスタントメッセンジャーサービスの一つ)に投稿した声明でウクライナ当局を「キリストと正教信仰の敵」と呼んだ。一方、ウクライナの福音主義者たちは、ウクライナ憲法で約束されているように、平和と少数派の信仰の自由を願っている。

 「(メリトポリでは)人々は荒廃している」と、家族とともに移住したポーランドから録音した証言でボディュー氏は述べた。「私たちはウクライナ軍がその領土を取り戻すのを待っている。そうすれば、私たちの教会の建物とミニストリーを取り戻すことができる。そして、私たちはこのことについて祈っているのだ」

(翻訳協力=中山信之)

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