【映画】 周到さでも着実に厚み増す 「イスラーム映画祭6」 主催者・藤本高之さんに聞く 2021年2月21日

 今年もイスラーム映画祭が開催される。6回目となる今回の開催予告は、2021年の状況が誰にも読めないなかで為された。初回以来、本映画祭をひとりで企画してきた藤本高之さんに話を聞いた。

 日本初公開7篇を含む全14作で構成される今回は、西はモロッコから東はタイまで例により幅広い地域の映画が扱われる。映画産業のなかったイエメンで製作された作品として、同国内初の商業公開を遂げた『結婚式、10日前』は目玉作の一つだ。イエメン作品としては、前々回にも同国初の女性監督作『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』が日本初公開されている。各種国際機関を通じシリア以上の惨状が報告されながら、日本の報道では看過されがちな内戦がつづくイエメンへの目配りを忘れない。本映画祭は回を重ねるごと、その周到さにおいても着実に厚みを増している。

“10 Days Before the Wedding” “تريلر فيلم 10 أيام قبل الزفة”

【映画評】 『わたしはヌジューム、10歳で離婚した』 児童婚の実態から見える普遍性 Ministry2019年2月・第40号

 藤本さんへのインタビューは4回目になるが、印象的だったのは新型コロナに対する姿勢の、世間との温度差だった。感染拡大の現況下、映画や映画館をめぐる話題は新作の公開延期や客席半減など“自粛”措置で占められがちだ。しかし開催実現へ向けた各国関係者との交渉の過程では、コロナ禍の影響はあまりなかったという。日本では目下新型コロナ関連の海外ニュース報道が欧米中心であるのに対し、上映作製作元の大半を占めるのが西~東南アジアという違いは大きいのだろう。作業過程で最も大きな支障が出たのはレバノンとの通信で、これはベイルート港湾部での爆発事故によるものだった。

“Scheherazade’s Diary”

 今回上映されるレバノン作品は、女性刑務所におけるドラマセラピーを主題とする『シェヘラザードの日記』。レバノンは小国ながら、上映作製作元としては全イスラーム映画祭を通じ最頻出国の一つとなっている。これはベイルートが文化の都であり、一帯の国地域において“映画の都”として機能しているからでもある。日本でベイルートといえばテロや紛争の危険なイメージがつきまとうが、こうして日常あまり意識の及ばない地域のリアルに触れることができるのも本映画祭の強みだ。

 また前回は会期延期や大幅な減収に見舞われながら、映画業界の抱える問題として藤本さんがいま語るのは自粛営業による苦境や政府補償の薄さなどより、むしろ業界内のパワハラ事件や映画雑誌の炎上騒動へ集中する点も印象深い。「イスラーム映画祭5」では過去の総決算ともいえる100頁の冊子を作成したが、今回もまた50頁に及ぶアーカイブが販売される。そこでは昨今の業界内問題についても意見を表した。コロナ禍はむろん、映画祭継続上の死活問題には違いない。しかし病災は“思し召し”として受け入れ、人災には決然と態度表明する“禍”に対する姿勢は、どこかイスラーム精神へ通じるものを覚える。

 4年前の初対面時、「話題にならなくなってからが勝負だ」と藤本さんは語っていた。開催10回は目指したい、テレビやラジオの注目が薄れ、当然のように毎年やっているものと人々が傍目に認知するような映画祭となるのが目標だと。目標半ばにおける峠越えが想定外の難所となったイスラーム映画祭、今後とも注目したい。

(ライター 藤本徹)

「イスラーム映画祭6」
公式サイト:http://islamicff.com/
東京・ユーロスペース 2月20日(土)~2月26日(金)*一部延期
名古屋・シネマテーク 3月20日(土)~26日(金)
神戸・元町映画館   5月1日(土)~7日(金)

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