【映画】 「イスラーム映画祭8」東京-名古屋-神戸 主宰者・藤本高之さんインタビュー 2023年2月13日

 今年もイスラーム映画祭が開催される。2月からゴールデンウィークへかけて東京、名古屋、神戸と移りゆく流れも恒例となって久しい。上映14作のラインナップはいつも通りに広範囲を抑えながら、これまでより若干明るさを増した通奏低音が聴きとれる。上映環境を大いに混乱させたコロナ禍後の未来への、薄明ながらも素朴な希望がそこには込められているようでもある。

 例年通り、映画祭主宰の藤本高之さんへインタビューを行った。席数の半減や会期の変更等、苦渋の決断を度々迫られたコロナ禍の数年中でも、急激な円安を伴う今年は最も厳しいと藤本さんは言う。注目作の紹介を皮切りに、以下本映画祭の見どころを概観したい。

 8年目を迎える今回の目玉作を特に挙げるとすれば、シリア映画『太陽の男たち』とチュニジア映画『マリアムと犬ども』になる。『太陽の男たち』は、1948年のイスラエル建国に伴うナクバ(大災厄)により難民化したパレスチナの男3人による逃避行を描く傑作文学が、1972年に映画化されたもの。原作者であるパレスチナ文学の巨人ガッサーン・カナファーニーの知名度に反して、本作が日本で一般上映される機会は極めて稀だ。

 一方『マリアムと犬ども』は、〝アラブの春〟後の2012年に起きた警察官による強姦と、病院での診察拒否を含む二次加害模様を描く。チュニジアはアフリカ北岸に並ぶイスラーム諸国の中ではかなり開明的な土地柄が知られるだけに、その闇の深さがかえって際立つ。本作を撮った女性監督カウサル・ビン・ハニーヤは、自らの全身の皮膚を現代アート化することで渡航ビザを得る難民の男を主人公とする『皮膚を売った男』が、昨冬日本公開されたことも記憶に新しい。

 このように、過去日本国内で商業公開された作品の監督他作がしばしば上映される点でも貴重な本映画祭だが、その意味で今回目立つのは〝僕を生んだ罪〟で実親を訴えた貧困少年を描く『存在のない子供たち』で脚光を浴びたレバノンのナディーン・ラバキーによる出世作『キャラメル』と、代表作『私たちはどこへ行くの?』のアンコール上映だ。小さな村での宗教的宥和と分断を主題とするレバノンの質実なドキュメンタリー『そこにとどまる人々』がラバキー両作と同日上映される日が設定されなど、本映画祭は日程的にもよく練られた構成となっている。

 他にもアルジェリア出身でロマの血を引き、『ガッジョ・ディーロ』『モンド』などでカルト的な人気をもつトニー・ガトリフ監督作『愛より強い旅』(“EXILES”)や、イラン映画の巨匠モフセン・マフマルバフの作品に幼少時より出演し、自身すでに4本の長編を監督している長女サミラ・マフマルバフによる3作目『午後の五時』も日本では現状稀な上映機会となる。妹のハナ・マフマルバフ監督作『子供の情景』が昨年の「イスラーム映画祭7」で上映されたが、こうして張り巡らされる細やかな連続性の企図も、個人の企画運営で継続されてきた本映画祭ならではと言える。 

 また異色作としては、韓国人少女とバングラデシュ人青年の邂逅を通し、日本でいう技能実習生制度の韓国版のような状況を映す『わたしはバンドゥビ』(以前の邦題は『僕たちはバンドゥビ』)や、LGBTとアラブ社会との交接を扱う『陽の届かない場所で』の日本初上映がある。フランスのムスリム移民生活を描く『ファーティマの詩』は、根深い移民/難民問題がそのまま映画ジャンルと化したいわゆる〝郊外映画(Le cinéma de banlieue)〟からの本映画祭初上映作となる。

 関連の研究者やジャーナリスト、演奏家らを招くゲストトークや、上映作をめぐるアーカイヴ出版も例年通りの充実ぶりだ。コロナ禍による数年の閉塞を経て円安由来の上映権料高騰と受難つづきのイスラーム映画祭だが、その当初から掲げられてきた目標の一つ「10回開催」の達成が、いよいよ視野に入ってきた。

(ライター 藤本徹) 

《イスラーム映画祭8》
公式サイト:http://islamicff.com/index.html
・渋谷ユーロスペース 2月18日(土)~24日(金)
・名古屋シネマテーク 3月予定
・神戸・元町映画館 4月29日(土)~5月5日(金)

「イスラーム映画祭」主宰者の藤本高之さん

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